2016年02月19日発行 1416号

【グローバル資本のためのTPP/世界は反対で大行動/協定の発効は阻止できる】

 昨年「大筋合意」したTPP(環太平洋経済連携協定)の調印式が2月4日、ニュージーランドで行われた。国内メディアは2017年度の「発効」がすでに決まったかのような報道ぶりだ。だが内容も試算もでたらめのTPPには世界で反対運動が高まり、米議会での審議も難航が予想される。発効阻止は可能だ。

粉飾だらけの政府試算

 TPPの影響について、政府は昨年末に試算を公表。日本の国内総生産(GDP)は2・6%、13・6兆円の増加とする一方、農林水産業の生産減少額は1300〜2100億円にとどまるとの内容だ。

 だが、安倍政権が2年前に行ったTPPの影響試算では、GDPの増加は3・2兆円、農林水産業の減少額は3兆円となっていた。わずか2年でGDPのプラス効果は4倍に増え、農林水産業へのマイナス効果は約20分の1に「縮小」している。政府は、2年前の試算がTPP全加盟国が関税を「即時全面撤廃」することを想定していたのに対し、今回の試算が「大筋合意」の内容に沿ったものに改めたから、と言い訳する。

 だが、政府はこれまで「関税が撤廃されればされるほど経済効率は高まる」と宣伝してきた。「大筋合意」の内容は関税即時全面撤廃ではないのだから、政府の説明どおりなら2年前の試算の方がGDPは高くなるはずだ。試算はTPPの効果を強調するあまり、政府自身が過去に行ってきた説明にも反するでたらめな内容となっている。

 内閣府や甘利明・前TPP担当相は、2年前と比べてGDP増加が4倍に拡大した今回の試算について「トリクルダウン」による経済効果を取り入れたからと説明した。トリクルダウンとは「大企業を儲けさせれば、賃金上昇などで国民全体にその効果が及ぶ」というもので、新自由主義者が好んで宣伝する経済「理論」だ。ところが、「骨の髄まで新自由主義者」として知られる竹中平蔵慶大教授は正月のテレビ番組で「トリクルダウンなんてあるわけがない。期待する方がおかしい」と開き直っている。

 TPP反対派として知られる鈴木宣弘東大大学院教授が、2年前の政府試算と同じ方法で試算すると、実質GDPの増加はわずか0・069%、5千億円に過ぎないとの結果が出た。農林水産業の減少額は1兆5594億円。関連産業(食品産業など)を含めると減少は3兆6千億円に及ぶ。TPPはグローバル資本のための協定であり、市民に恩恵などないことは明らかだ。


署名に世界各地で抗議

 今回のTPP署名に反対し、世界各地で抗議行動が広がっている。全国40か所でアクションがあった米国では、ホワイトハウス前に集まった市民が「TPPは裏切り行為だ」の横断幕を掲げて抗議。TPP撤回を訴えた。労働組合関係者はTPP合意文書の内容について「労働基準や雇用の流出に関する抜け穴が予想以上に酷い」と指摘。署名会場のあるニュージーランドでも、市民・労働者や先住民族・マオリの団体などが「TPPは企業の利益重視で、市民生活向上につながらない」と大規模なデモや集会で抗議した。

 日本国内でも2月4日、様々な抗議行動が行われた。「TPPに反対する人々の運動」の山浦康明共同代表は、遺伝子組み換え食品の安全基準がTPPで緩和されると指摘。マオリの芸術家モアナ・マニアポトさんは「我が国でも多くの人が医療や環境を心配している。署名されたが、これで終わりではない。国境を越えて連帯し、行動を続けよう」と訴えた。

 農民連などは「でたらめ試算」の矛盾を追及する農水省交渉を実施した。「TPP交渉差止・違憲訴訟の会」は緊急声明を発表。TPPの問題点のほか、政府が交渉内容に関する協定文の日本語訳を発表したのが「大筋合意」から2か月も経った今年1月であったことを指摘。政府による「情報隠し」を批判した。

米大統領候補も反対

 TPP発効は、全参加国の批准から60日後が原則だが、署名から2年たてば「域内GDPの85%以上を占める6か国以上」の批准が必要となる。加盟国の中でもGDPで圧倒する日米両国での批准阻止が鍵を握る。

 米国では、民主・共和両党の大統領候補者を決める予備選が始まった。候補らはこぞってTPP反対を公言し、議会審議は先送りムードが広がる。最大労組AFL―CIOも批准に反対しており、運動と世論の力で発効を阻止する展望が切り拓かれつつある。

 世界の市民の連帯でTPP発効を阻止しよう。

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