2016年02月26日発行 1417号

【サンダース支持急拡大の背景 アメリカ大統領選指名争い 新自由主義・不平等への怒り】

 11月のアメリカ大統領選挙に向けた民主党候補者指名争いで、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)が急速に支持を広げている。それは、深刻な貧富の差、不平等の拡大に怒る若者・市民らが、グローバル資本の中心、米国でも変化を作り出しつつあることを物語る。

草の根運動とサンダース

 74歳のサンダースの経歴は、グラスルーツの運動とともにあった。シカゴ大学在学時から社会主義者青少年同盟のメンバーとして活動し、半世紀にわたって労働組合運動や公民権運動など一貫して社会運動に取り組んできた。バーモント州バーリントン市長を務め、無党派の政治家として経験を積みながら、米国の下院議員、上院議員を務めてきた。

 大統領選への立候補表明後には、富の公正な分配を掲げ、全米各地で支持を広げてきた。昨年7月末のアリゾナ州の集会に1万2千人、8月8日ワシントン州で1万5千人、翌9日オレゴン州では2万8千人、10月17日コロラド州集会には9千人が参加した(宮前ゆかり「バーニー・サンダースの台頭」『世界』12月号)。

 サンダースは、巨大企業からの政治献金を拒否しているが、2015年に選挙資金を7500万ドル(約8億5千万円)集めた。その大半は200ドル以下の小口の献金だ。2016年1月に集まった2千万ドルのほとんどは、オンラインからの平均1口27ドルの寄付という(ハフィントンポスト1/31)。

 草の根の運動・世論に支えられたサンダースは2月1日、アイオワ州民主党員集会で49・6%の支持を獲得し、49・8%のヒラリー・クリントン前国務長官と互角の接戦。9日のニューハンプシャー州の予備選では、60%の得票を得て、38%のクリントンを圧倒した(日経2/11)。

最賃15jと大学無償化

 社会主義への反感・偏見が広く存在する米国で、サンダースは自ら「民主社会主義者」と称し、「1%の人々のためだけでなく全国民のために働く政府の実現」を訴えてきた(朝日2/3)。その主張の重点は、新自由主義政策を背景とした巨大銀行や大企業への富の一極集中を批判し、富の公正な分配を実現することにある。

 アイオワ州の民主党員集会を通じて提起した政策は、以下のようなものだ。時給15ドルの最低賃金の実現。学生ローンの廃止と公立大学の無償化(その財源はウォール街の巨大銀行の投機に課税することで実現する)。アフリカ系アメリカ人やラテン系アメリカ人を不当に刑務所に送ることの停止。エネルギー消費システムを変えて気候変動問題に対応。権利としてすべての人に医療保険を保証―。

 同時に、サンダースは、労働者の家族や中間階級の人びとの連帯を通じ、アメリカにおいて巨大企業や大企業の資金に支配されず、政治的な変革を実現していく必要性を訴える。彼は「政治革命」と強調している。

若者と労働者が支持

 では、誰がサンダース候補を支持しているのか。アイオワ州の民主党員集会での世論調査では、17〜29歳の84%、30〜44歳の58%がサンダースを支持した。また、年収3万ドル(約340万円)以下の人びとの57%、収入の不平等に関心を寄せる人びとの61%がサンダースを支持した。

 背景に若者や市民を取り巻く深刻な事情がある。大学の学費は高騰し、学生が抱えるローンの平均額はこの10年で1・7倍に上昇し、約430万円となった。オバマ政権下で上位1%の富裕層の収入は約4割増える一方、残り99%の収入は減少、貧富の差は拡大した。サンダースを支持する27歳のレスリー・フェインさんは、フォトジャーナリストを目指し大学に進んだが、ローン返済に困り3年で中退。その後、鉄道会社に運転手として就職したが、経営悪化で解雇された。そんな経験に「この国の経済格差は手に負えなくなっている」と語る(朝日2/3)。

 このように、サンダース支持者には、新自由主義政策の下で、巨額の学生ローンを抱えあるいは不安定雇用を経験してきた若者層、低賃金で働く労働者層などが多い。

 新自由主義を批判し転換を求める社会的・政治的なうねりは、北アフリカ・中東諸国、ギリシャ、イギリス、ポルトガル、スペインなど次々と広がってきた。グローバル資本主義の中心である米国でも、2011年のオキュパイ・ウォールストリート運動(巨大銀行への富の集中を批判し「われら99%」を唱えた占拠運動)以降も、全米各地で新自由主義批判の運動が粘り強く続いている。

 99%の若者・市民・労働者の運動と世論を背景としたサンダース。その支持の急速な拡大は、新自由主義政策からの根本的転換を掲げ、民主主義的な社会主義を打ち出すことの今日的な意義と展望を示している。

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