2016年02月26日発行 1417号

【米国最賃引き上げに学ぶ―反貧困ネットが集会/最低賃金15ドルを条例化/社会正義掲げる労働運動が力に】

 アメリカ各地で相次ぐ最低賃金15ドルへの引き上げ。その闘いを紹介する集いが2月13日、都内で開かれた。

 主催者あいさつした反貧困ネットワーク世話人代表の宇都宮健児弁護士は「4年連続で実質賃金がマイナスとなった。法人税の引き下げは労働者に還元されず、内部留保に貯められるだけ。最賃を一律1500円に上げれば、内需が拡大し景気もよくなる」とアベノミクスの失敗を批判。「地方創生が叫ばれているが、まずやるべきは全国一律の最低賃金制。本来なら労働組合が春闘で取り上げるべきテーマであり、人権と公正、正義を求める闘いだ」と訴えた。

 一橋大学大学院社会学研究科の高須裕彦さんが、アメリカの市・郡レベルで進む最賃引き上げとその要因を報告した。全米に適用される連邦最低賃金は7・25ドル(約870円)だが、サンフランシスコ市やシアトル市、ロサンゼルス市では段階的に15ドル(約1800円)に引き上げる条例を通した。日本では最も高い東京都でさえ907円だ。

 背景に、社会運動ユニオニズム(社会運動的な労働運動)、つながりをつくる活動への方針転換があった。90年代のビル清掃労働者・在宅介護労働者の闘いは「いずれも地域や移民コミュニティと強い連携を構築しながら、社会正義を掲げて成功した」という。94年ボルチモアでの自治体委託業務に従事する労働者の「生活賃金条例」がモデルになって全米に広がった生活賃金運動も「経済的平等を求める運動団体、キリスト教会、貧困住宅問題に取り組む団体などが生活賃金共闘を結成して進められた」。

 2008年のリーマンショックをきっかけに2011年秋、「私たちは99%」のスローガンで立ち上がった「ウォール街占拠」運動。続く2012年、時給15ドルを求めて闘ったウォルマートやファストフード労働者のストライキ。「労働組合が組織した職場ストとは全く異なり、社会的なキャンペーンとしてのストライキ行動だった。団体交渉権のない各店舗の労働者がストを実施する。そこに低賃金労働者や地域の支援者が合流する。それがメディアやSNSを通して拡散された。連邦最賃制の法律を変えなくても、自治体の首長らを動かし、最低賃金の引き上げを実現してきた」

 課題も提起された。最賃が引き上げられても、解雇規制が弱い。労働時間の規制がない限り、効果はもたらされない。「オンコール(仕事があるときに呼び出される)労働者が増えている。RAP(小売アクション・プロジェクト)は経営者に直接プレッシャーをかけ、オンコールをやめさせるよう取り組んでいる」。日本の労働組合組織率は年々減少し、非正規労働者はほとんど組合を持たない。「だからこそ最低賃金の引き上げは日本の労働運動にとって重要な課題」と指摘した。

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