2016年02月26日発行 1417号

【MDS学習講座/現代日本の資本主義をどう見るか/戦争政策の根源に帝国主義】

 戦争法の施行から憲法「改正」へ進もうとしている安倍政権。その軍拡・戦争政策は、グローバル資本主義の内部で日本の独占資本主義がその勢力圏を急速に拡大していることに密接に連関している。そうした連関を解明するうえで不可欠なのが、マルクス主義の帝国主義論である。

 レーニンの『帝国主義論』(1917年)は、第1次世界大戦のような過去の戦争と植民地支配の階級的性格を突きとめるうえで有効であったにとどまらず、現代の戦争と新自由主義政策の根本的な原因を突きとめるうえでも基本的な視点を提供している。

 レーニンは帝国主義を「資本主義の独占的段階」と簡潔に規定したうえで、それのもつ5つの標識を挙げた。すなわち、(1)生産と資本の集積による独占的企業の形成、(2)銀行資本と産業資本とが融合した「金融資本」を土台とする金融寡頭制の成立、(3)商品輸出と区別される資本輸出の増加、(4)国際的な資本家の独占団体の形成、(5)列強による地球の領土的分割の完了である。

 最後の(5)の標識は、アジア・アフリカ諸国が戦後に植民地支配から独立した今日の世界にはもはやあてはまらない。しかし、(5)の標識が脱落しているからといって、独占資本主義が帝国主義でなくなるわけではない。独占資本の形成とそれにともなう資本の過剰こそが、帝国主義の経済的基礎をなしているのであって、戦争や内政干渉へと向かう政治的な傾向はこの基礎から不断に生じてくる。以下では、上の(1)〜(4)の4つの標識に照らして日本資本主義の現状を概観してみよう。

生産と資本の集積

 現在の日本でも、高度な技術と大規模な設備を要するような商品の市場は、一握りの大企業によって占有されている。これらの市場は、その7〜9割が上位の4〜5社によって占められている(表1)。2016年になって、トヨタ自動車は軽自動車に強いダイハツ工業を完全子会社することを、新日鉄住金は鉄鋼で国内5位の日新製鋼を買収、子会社化することを発表した。こうした大規模な合併・買収により、日本における資本の集中の度合いはますます高まっていく。


金融寡頭制の成立

 日本では戦前の財閥は、戦後に占領軍によっていったん解体されたものの、銀行を中心にしてかつてのグループ企業が再結集し、メインバンクによって結びついた6大企業集団(三井、三菱、住友の三大財閥系と、芙蓉、三和、第一勧銀の系列)を形成した。これが、日本における金融寡頭制である。

 その後、バブル経済の崩壊とグローバルな競争の激化が起きた1990年代以降、財閥の垣根を越える大銀行の合併がくり返され、旧来の6大企業集団は大幅に姿を変えた。今日では、4大銀行(三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、りそな銀行)と、3大メガバンク(三菱UFJ、みずほ、三井住友各FG)に落ち着いている。

 しかし、金融機関による産業資本への統制のあり方は21世紀になって様変わりした。20世紀の日本の金融寡頭制は、銀行がメインバンクとして産業資本の経営を監視し統制するという形態をとっていたが、今日ではカストディアン(custodian)による支配が優位に立っている。

 カストディアンとは、投資家に代わって有価証券(株)を管理・運用する業務に特化した信託銀行を指す。日本のカストディアンは、2000年から01年にかけて3大メガバンクの系列ごとに相次いで設立された。すなわち、日本トラスティ・サービス信託銀行(三井住友系)、日本マスタートラスト信託銀行(三菱UFJ系)、資産管理サービス信託銀行(みずほ系)の3社である。

 日本経団連の役員になっている大企業のほとんどは、これらのカストディアンが大株主となっている。たとえば、経団連の会長を務める東レの大株主の第1位は日本マスタートラスト信託銀行、第2位は日本トラスティ・サービス信託銀行である。そして、副会長を務めるアサヒグループ・ホールディングス、東京海上ホールディングス、新日鉄住金、トヨタ自動車、日立製作所、三菱重工業、住友化学、三井物産なども、大株主の第1位または第2位は例外なく、日本マスタートラスト信託銀行または日本トラスティ・サービス信託銀行が担っている。

 これらのカストディアンは、期末における1株あたりの配当金を増やすことを経営の最優先目標とするよう、企業に対して圧力をかける。資本の回収に長期間を要する大規模な設備投資は敬遠され、企業経営の視野は短期的なものとなる。

資本輸出の増大

 資本主義の独占段階においては、資本の輸出(対外直接投資)が急速に発展する。なぜなら、生産と資本の集積・集中のもとで得られる莫大な利潤を投資して儲けをあげることのできる領域が、国内には見いだされなくなり、それを海外に投資するほかはなくなるからだ。一国内におけるこの資本の過剰と資本の輸出こそ、他民族への抑圧や戦争を引き起こす諸要因の核心に位置している。

 日本の資本輸出(対外直接投資)は、大戦中におけるアジア諸国への侵略と植民地支配のせいで1985年までは無視しうるほどの額であったが、同年以降の円高を受けて急激に拡大し、1980年の24億ドルから2014年の1136億ドルへ、50倍近くにまで膨れ上がった。

 これにより、日本の対外直接投資残高は2012年に約1兆ドルを超えるにいたり、世界で十本の指に入る投資大国となった(表2)。香港、スイス、オランダ、ベルギーは租税回避地(タックス・ヘイブン)であり、投資の経由地であるにすぎないから、これらの国や地域を度外視するなら、日本は世界第5位の資本輸出大国である。



 加えて、日本の銀行による海外投融資残高は2015年6月末に約3・5兆ドル(420兆円)となり、金融大国として名をはせたイギリス(3・4兆ドル)やアメリカ(3・2兆ドル)を抜いて世界一となった。とくに3大メガバンクは過去4年半で海外融資を2・6倍に増やし、3行で計80兆円規模の海外投融資残高を計上するにいたった。

国際的な資本家団体の形成

 2015年には、日本企業による海外M&A(合併・買収)が前年比93・9%増の11・3兆円となり、過去最高を更新した。最大の案件は、伊藤忠商事がタイの財閥と共同で実施した中国の政府系複合企業「中国中信集団」への1・2兆円の出資であった。これ以外の2015年における主な海外M&Aは、表3のとおりである。



 この表に掲げられた企業はいずれも内需志向の企業である。そうした企業までもが海外M&Aに向かうのは、先細りが続く国内市場をもはやあてにせず、海外市場に活路を見いだそうとしていることを意味する。実際、2015年1〜10月に日本企業は海外M&Aの実績で前年同期から順位を1つ上げ、世界第6位に浮上した。

 日本独占資本の多国籍化はリーマン・ショック以降に急速に進行し、日本の大企業はいまや資本の過剰のはけ口を主として海外に振り向けるようになった。1980年代から90年代にかけての日本による対外直接投資はアメリカに重点を置いていたが、この地域的偏りは日本企業によるアジア(とくに中国)への投資と欧州企業へのM&Aの進展につれて薄らいでいき、日本独占資本はいまではアジア、北米、欧州に子会社のネットワークを張りめぐらす本格的なグローバル資本となった。安倍政権の軍事大国化政策は、日本のそうした帝国主義大国化を背景にしている。

  *   *   *

 レーニンが述べているとおり、帝国主義は独占資本による「政策」ではなくて、資本主義の一定の発展段階である。軍備拡張や戦争といった「政策」は私たちの闘いによって平和の政策へ転換することができる。しかし、戦争という現象の根源である帝国主義は、その基礎である独占資本主義の構造に手を触れないかぎり解消することはできない。

 独占と資本の過剰とにもとづく資本輸出が存在するかぎり、海外へ投下された資本を政治的・軍事的な手段によって防衛しようとする資本主義大国の策動は不断に生まれてくる。私たちは、資本の過剰を勤労人民への公正な分配を通じて解消し、利潤の追求を自己目的とはしない生産関係の構築――民主主義的社会主義への道――をとおして、独占資本主義を克服するのである。

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