2016年03月04日発行 1418号

【朝鮮ロケット発射をどう見るか/危機感煽り「緊急事態」演習/宇宙までも軍事化を狙う】

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「人工衛星」打ち上げ予告に対し、日本政府は「事実上の長距離弾道ミサイル」としていち早く迎撃態勢をとり、2月7日の打ち上げ後には「弾道ミサイルを発射」と断定する官房長官声明を発表、独自制裁措置を決めました。これに対し、朝鮮政府は拉致被害者調査中止を表明するなど、新たな緊張関係が生み出されています。この事態をどう見ればよいでしょうか。

弾道ミサイル?

 まず、何が発射されたのか、事実を確認しましょう。

 菅義偉(よしひで)官房長官の声明(2/7)は「弾道ミサイルの発射」と言い切っています。ミサイルとは通常、推進装置と誘導装置を持つ飛翔兵器のことです。簡単に言うと軍事兵器であるか否かがポイントですが、朝鮮が兵器を飛ばしたのかと言えばそうではありません。

 朝鮮政府は地球観測衛星を地上約500キロメートルの太陽同期軌道(同一地点を同時刻に撮影できる南北軌道)に投入したと発表しました。米軍もほぼこの発表通りの軌道に人工物体を確認しています。観測衛星として起動するかは不明ですが、「人工衛星の打ち上げ」であったことは間違いないでしょう。

 大気圏外に計算通りの速度・方向に物を運ぶロケット誘導の技術は、当然核兵器を運ぶ技術にもなります。今回使われたロケットは米国ワシントン、ニューヨークまで届く性能だったようです。大陸間弾道ミサイル(ICBM)は、ロケットで大気圏外に運んだ弾頭を打ち出し、放たれた弾頭が慣性力に従って目標に落下します。ロケット技術の他に大気圏再突入時の耐熱防護技術が必要です。発射準備に何日もかかる形式のロケットでは兵器にはなりません。

 朝鮮は軍事優先の独裁国家。核実験も繰り返しています。ロケット発射はミサイル開発のための発射実験=軍事的威嚇と位置付けています。アジアに軍事緊張をもたらし日米韓好戦勢力に戦争の口実を与える行為は厳しく非難しなければなりません。それは、朝鮮だけに限った話ではありません。日本をはじめ自前のロケットを打ち上げている国はどこも、「事実上」ミサイル開発を行っています。軍拡競争をやめるべきです。

破壊措置命令?

 「衛星打ち上げロケット」を「弾道ミサイル」と言うには、2段階も3段階も飛躍があります。それを承知で、なぜ「破壊措置命令」が出されたのでしょうか。「失敗したロケットが頭の上に落ちてくるかもしれない」との説明で、納得できますか?

 落下するロケットの破片を撃ち落とすなどと考えること自体間違っています。打ち上げ失敗のロケットは爆発して破片になっています。それをミサイルで撃つとどうなるか。当たっても当たらなくても、ミサイルの爆発片を増やし、より危険な状態を生み出してしまいます。

 自衛隊は、PAC3(地対空誘導ミサイル)などを沖縄や首都圏に配備しました(詳しくは本紙1416号「ミリタリーウォッチング」)。こんな馬鹿げた対応は朝鮮に対して以外取りません。

 09年、韓国が初の人工衛星を打ち上げた時、コースは今回の朝鮮より日本に近く、沖縄本島の上空を通過する一層「危険な」ものでした。日本政府は「平和目的のロケット発射、領空のさらに上空を通過、落下物の迎撃体制はとらない」と臨みました。打ち上げは失敗し、ロケットの一部が沖縄北の海上とオーストラリア北部の陸上部に落下しましたが、「何もしない」、これが普通の対応です。

 「朝鮮のミサイルが米国を狙う場合」―集団的自衛権の必要事例に使われました。実は1月12日から2月2日まで日米共同指揮所演習を行っていました。安倍首相は「平和安全法制(戦争法)と新たなガイドライン(日米軍事協力指針)のもとで強化された日米同盟が円滑に効果を上げた」と朝鮮の「ミサイル発射」を演習の効果を試す絶好の機会になったと歓迎する発言をしています。自衛隊の幹部も「訓練をしているのか、実際の対応をしているのか分からなくなるほど」と言います。さらにJアラート(全国瞬時警報システム)を運用させ自治体を巻き込むなど、大規模自然災害も軍事演習も一緒くたにする「非常事態」の大演習だったわけです。

宇宙の安全保障?

 朝鮮の脅威を利用して進めようとしているのが、「ミサイル防衛」システムのグレードアップです。「防衛」システムの根幹は、情報収集能力とミサイル群の誘導システムです。その重要な構成要素がGPS(全地球測位システム)などの衛星システムです。

 政府は昨年1月、第3次宇宙基本計画を決定しました。安倍首相は「新たな安全保障政策を十分踏まえた長期的具体的計画」だと言っています。戦争法発動、集団的自衛権行使を実体化する宇宙戦略です。「日米衛星測位協力」や「Xバンド防衛衛星通信網」など日米共同の衛星システムが目白押しです。宇宙の軍事利用をリードする米軍と肩を並べ、自前のシステムを構築しようと戦略を練っているのです。

 朝鮮の核・ミサイル開発を断念させるには、制裁強化では効果はありません。脅して思い通りになると考えるのは、核を突きつけることと同じで軍事緊張を高めるだけです。逆に在韓米軍の核兵器を撤去するなど朝鮮半島の非核化をめざす6か国協議を進める以外に方法はありません。

 今回の事態は、朝鮮の暴挙批判と同時に、安倍独裁政権の戦争法発動、軍拡路線に一層の警戒をしなければならないことを教えています。

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