2016年03月04日発行 1418号

【3・11から5周年 東電・福島原発事故は人災 次々に明らかになる新証拠】

 福島原発事故から5年。東京電力、政府、検察一体となった真相隠しにもかかわらず、事故が「想定外の自然災害」などではなく、まさしく人災だったことを示す証拠が次々に明らかになっている。

覆された津波対策方針

 昨年7月31日、東京第5検察審査会は福島原発告訴団が申し立てていた勝俣元東電会長、武藤元副社長、武黒元副社長の3人を業務上過失致死傷罪で強制起訴を認める議決を行なった。

 この議決の根拠となった事実こそ、政府事故調と検察が隠蔽し、原告や弁護士すら知らなかったものだった。

 それは、07年12月時点で東電が政府の地震調査研究推進本部による「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(以下、「長期評価」)を取り入れる方針を決め、09年6月には耐震バックチェック(安全性の再評価)を終える計画だったということだ。

 08年3月には、東電の設計部門が「長期評価」を用いて、明治三陸沖地震の津波の波源モデルを福島県沖海溝沿いに設定した場合の津波水位を試算し、最大値が敷地南部でO・P(小名浜港の平均潮位)+15・7bとなることがわかった。同年6月にはその結果が上層部に報告され、合わせて原子炉建屋等を津波から守るためには約10bの防潮堤を設置する必要があることも説明された。津波水位の試算は、防潮堤の高さを決めるための試算だった。この防潮堤の話は今回の議決で初めて世に出た事実だ。これまでの各報告書や検察の捜査結果からは故意に落とされてきたものだ。

 もし07年末の方針どおり、10bの防潮堤が設置されていたならば、今回のような大惨事は防げていた。

 ところが翌7月、「方針の転換」が行われた。武藤副社長がいったん決まっていた「津波対策」について「やらない」という指示を出したのだ。そして、時間稼ぎのために、電力業界の人脈で固めた土木学会に検討を依頼し、耐震バックチェックの期限を16年1月まで6年半も引き延ばした。

 被告人である東電幹部らは、いずれ「長期評価」に基づく対策が不可避であることを認識していながら、老朽化した原発に多額の費用をつぎ込むことを惜しみ、津波対策を先延ばしした。その結果が福島原発事故だったのである。

 原子力安全・保安院は東電の対応の遅れを認識しながら、具体的な指示をせず、東電の先送りを容認した。(詳しくは、海渡雄一著・福島原発告訴団監修『市民が明らかにした福島原発事故の真実』)

手順書を無視した対応

 地震・津波の発生に伴う交流電源喪失事態に対する対応にも誤りがあったことが明らかになった。

 それは、「吉田調書」(政府事故調による福島第1原発の故・吉田所長へのヒヤリング記録)の公開による。

 福島第一原発にも、事故時の対応を記した手順書があった。だが、吉田所長は「全交流電源が喪失した時点でこれはシビアアクシデント事象に該当し得ると判断しておりますので、いちいちこういうような手順書の移行の議論というのは、私の頭の中では飛んでいますね」と答えている。

 1号機と違って炉心溶融まで時間のあった2、3号機で時機を得た原子炉減圧・代替低圧注水を行わなかったのはなぜかという疑問を持っていた田辺文也さん(社会技術システム安全研究所主宰)は、吉田所長の発言に注目した。

 詳しく事故後の対応を検討した結果、事故対応のルールを定めた手順書をないがしろにして勝手なアドリブで事故対応に当たったことが2号機、3号機の炉心溶融を招き、深刻な汚染をもたらす主要な原因となった可能性が高いとの確証を得た。2、3号機の炉心溶融を防いでいれば、放射能の総放出量は実際の約10分の1に抑えられていた。

 田辺さんは言う。「本来なら炉心損傷を防ぐことを目的として、低圧で冷却水を注水する対応を実行するために原子炉圧力容器の圧を下げる急速減圧操作をしなければならない時間帯に、炉心損傷後の深刻な事態の進展を緩和することを目的に実行する格納容器ベントを進める作業に集中してしまった。これは手順書を逸脱する行為であった。事故収束のシナリオを壊してしまったのである」

 吉田所長が傾注したベント(圧力を下げるための気体排出)操作は、炉心損傷前はやる必要のないものだった。炉心損傷後に手順書のベント条件を無視してずるずると続けられたベント操作は、安全原則に反する「やってはいけない」ものだった。(詳しくは、雑誌『世界』連載の田辺文也「解題『吉田調書』」)

*   *   *

 東電が一度決めた通りに10bの防潮堤を設置していれば、少なくとも浸水による電源設備の機能喪失はなく、非常用ディーゼル発電機が使えなくなることもなかった。また、津波到来、全交流電源喪失後の現場対応でも、手順書に則った対処をしていれば、少なくとも2号機、3号機の炉心溶融は避けることができた可能性が高い。原発事故と放射能汚染拡大は明らかに人災だ。

 東電と政府の責任を徹底的に追及しなければならない。

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