2016年03月04日発行 1418号

【非正規の低賃金・無権利を克服する 同一労働同一賃金、均等待遇を】

 安倍首相は、1月22日の施政方針演説で「本年取りまとめる『ニッポン1億総活躍プラン』では、同一労働同一賃金の実現に踏み込む考え」と表明。 同26日の衆院本会議では、同一労働同一賃金と均等待遇に関する質問に対し、「均等待遇とは、仕事の内容や経験・責任、人材活用の仕組みなどの諸要素が同じであれば、同一の待遇を保障すること…女性や若者などの多様な働き方の選択を広げるためには、非正規雇用で働く方の待遇改善を更に徹底していく必要があり…同一労働同一賃金の実現に踏み込む…均衡待遇に止まらず均等待遇を含めて検討」と答弁した。

 だが、安倍の言う「同一労働同一賃金、均等待遇」とは、非正規労働者の低賃金・無権利状態を根本的に改善する真の意味での均等待遇ではない。

「正社員をなくす」

 政府は、パートタイム労働者と正社員の差別的待遇を禁じた改正パートタイム労働法(昨年4月施行)の規定を非正規労働者にも広げる想定だという。5月に策定する「ニッポン1億総活躍プラン」に方向性を盛り込み、早ければ来年の通常国会にも提出する方針だ。

 パート労働法は、職務内容や責任の重さに著しい差がないことに加え、転勤や配置転換の有無、異動範囲など「人材の活用」が同程度であるパート労働者について、正社員と賃金に差を付けない均等待遇≠求めている。しかし、この人材活用規定がハードルとなり、パート労働者約940万人のうち同一賃金が実現しているとされるのはわずか約32万人にとどまる。

 安倍答弁でも「人材活用の仕組み」が「均等待遇」の条件になっており、新たな法制による賃金格差是正の実効性は何ら期待できない。正規・非正規の賃金差の合理的理由について、企業側に説明責任を課すことも検討するが、きちんと抜け道も用意している。

 安倍が重用する御用学者たちは、同一労働同一賃金を実現するには、日本の雇用慣行である年功賃金、終身雇用を廃止する必要があると声を揃える。規制改革会議の八代尚宏国際基督教大客員教授は「年功賃金を維持したままでは同一労働同一賃金は不可能」と主張。産業競争力会議の竹中平蔵慶大教授は「(同一労働同一賃金実現を目指すなら)正社員をなくしましょうって、やっぱり言わなきゃいけない」と発言、解雇規制ルールの撤廃を主張する。

 安倍らは、「同一労働同一賃金」実現を阻むものが、正社員中の高齢層の年功賃金であり解雇規制であると叫びたて、これを破壊しようとしている。賃金引き下げ、解雇の金銭解決に代表される解雇自由化をめざし、労働者全体を底辺に向かって競争させることが真の狙いだ。

 労働組合の組織率が70%近いスウェーデンでは労働市場のルールは労使協定で決定される。企業間、産業間の賃金格差を縮小する「連帯賃金制度」により、「同一労働同一賃金」に基づいた賃金が決定される。これにより、同一の職種内での賃金格差はなく、景気などの影響によって急激に賃金が下がることもない。

 また、かつてオランダでは、手厚い社会保障制度は正社員だけが対象だった。その制度が1990年代以降、派遣社員など非正規社員にも広げられた。派遣社員の賃金は、同じ仕事をする正社員と変わらない。しかも万が一、失業しても給与の70%を最大3年間受け取ることができる。年金も平等な権利がある。派遣労働者に生活不安の声はない。

誰もが人間らしく

 一方日本では、厚労省調査によると、正社員の雇用保険、健康保険、厚生年金の加入率はいずれも99%を超えているが、非正規労働者では、雇用保険が65・2%、健康保険が52・8%、厚生年金が51%と大幅に低い。企業年金、退職金制度、賞与支給制度など企業が負担する法定外福利厚生費制度などへの加入は非正規労働者の場合、極めて少ない。社会保障と企業保障において無条件に格差をなくさなければならない。

 フルタイムの非正規労働者の賃金は月約20万円で年齢差はない。まずやるべきは、この賃金を同じ職種の正社員と無条件に同一にすることだ。正社員は責任が重い、転勤がある、職種転換がある、長時間サービス残業があるなどという「人材活用の仕組み」を口実に格差を温存させてはならない。正社員が「会社がすべて」の奴隷状態にあるなら、まず誰もが人間らしく働ける環境にすることが必要だ。非正規労働者を低い処遇に置く理由にはならない。

 非正規労働者の低賃金・無権利を根本的に克服する無条件の均等待遇こそ労働者の要求にしなければならない。

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