2016年03月04日発行 1418号

【高市「電波停止」発言/放送法をねじ曲げ統制に利用/参院選・改憲を見据えた脅し】

 気に入らない報道への圧力を強める安倍政権。今国会でも高市早苗総務相が究極の恫喝というべき発言を口にした。政治的公平性を欠く放送をくり返す放送事業者には「電波停止」を命じる可能性に言及したのである。だが、高市が行政処分の根拠に挙げる放送法は報道統制の道具ではない。安倍政権は法律の趣旨をねじ曲げている。

狙いは政権批判封じ

 問題の発言は「政治的に公平であること」などと規定した放送法4条に関する質疑の中で飛び出した(2/8衆院予算委)。高市は「国論を二分する政治課題で一方の政治的見解を取り上げず、ことさらに他の見解のみを取り上げてそれを支持する内容を相当時間にわたり繰り返す番組を放送した場合」などと具体例を挙げたうえで、「放送事業者が極端なことをして、行政指導しても全く改善しない場合、何の対応もしないとは約束できない」と答弁した。

 翌9日の質疑でも、民主党議員の「憲法9条改正に反対する内容を相当の時間にわたって放送した場合、電波停止になる可能性はあるのか」との質問に対し、「将来にわたって罰則規定を一切適用しないことまで担保できない」と答えている。

 「電波停止」の権限を持つ総務大臣が“行政指導をしても番組の内容を改めないなら「伝家の宝刀」を抜くこともある”と明言した。これは明らかに政権批判の封じ込めを狙った脅しである。テレビ局幹部が震え上がり、報道の現場にまで萎縮(いしゅく)効果が及ぶことは目に見えている。

 ところが、菅義偉(すがよしひで)官房長官は例の口調で「何の問題もない」(2/9)。安倍晋三首相は「何か政府やわが党が、高圧的に言論を弾圧しようとしているイメージを印象づけようとしているが全くの間違いだ。安倍政権こそ、与党こそ言論の自由を大切にしている」「気にくわない番組に適用するというイメージを広げるのは、『徴兵制が始まる』とか『戦争法案』と同じ手法だ」と、野党の追及に反論した(2/10衆院予算委)。

 何としらじらしい答弁であろうか。2月19日に出された政府答弁書は、高市答弁を踏襲し、一つの番組だけでも政治的に公平でないと判断し電波停止を命じる可能性を否定しなかった。こんな閣議決定をすること自体が報道に対する圧力ではないか。

改憲推進への布石

 元テレビディレクターの水島宏明・法政大教授は「この夏に参院選を控えたタイミングで高市氏が発言したことは、参院選対策という意味合いもあるのではないか」とみる(2/13東京)。安倍首相は憲法「改正」を参院選の争点にすると意気込んでいる。そこでテレビが改憲に批判的な報道をしないよう、先手を打ってきたというわけだ。

 事実、高市発言と歩調を合わせるように、安倍応援団の学者・文化人らが立ち上げた「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体が、2月13日付の読売新聞に意見広告を掲載した。内容は秘密保護法と戦争法を例に、テレビニュースは「反対」意見に偏っているというもの。放送法4条の各条項に明らかに違反しているというのである。

 安倍一派の主張を鵜呑みにしてはいけない。何度も指摘してきたことだが、放送法4条は政府が放送内容に干渉することを正当化する規定ではない。むしろ政治権力の介入を防ぎ、放送局を宣伝道具に利用させないためにある。

安倍こそ放送法違反

 そもそも放送法の目的は、政府や軍部の介入が横行した戦前の反省を踏まえ、「放送による表現の自由を確保すること」(1条)にある。具体的には、3条で「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と定めている。

 問題の4条だが、これは行政処分ができる「法規範」ではなく、放送事業者が自律的に守るべき「倫理規定」とされる。多くの憲法学者が指摘するように、4条を根拠にした放送内容への政治介入が許されるなら、表現の自由を保障した憲法21条に抵触することになるからだ。

 放送法制定時の衆院電気通信委員会で、当時の政府委員は「第1条に、放送による表現の自由を根本原則として掲げ、政府は放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と説明した(1950年1月24日)。意に沿わない番組を「偏向」と決めつけ攻撃する安倍自民党こそ、放送法に違反しているのである。

 学会の定説や従来の政府見解を無視し、法の趣旨を180度ねじ曲げる−−放送法に対する安倍政権の態度は集団的自衛権の行使容認と同じものだ。インチキ解釈の常習犯にごまかされてはならない。

   *  *  *

 かつて自民党は放送法から「政治的公平」条項を外そうと検討していたことがある。2004年頃の話だが、CS放送に自民党宣伝チャンネルを開設する構想があり、その妨げになると考えたのだ。今はなぜ言わなくなったのか。すべてのテレビ局がアベチャンネル、すなわち政府御用放送と化しつつある状況では不必要だからであろう。(M)

【電波停止と放送法】

 総務大臣が電波法76条に基づいて命じる行政処分。これまで発動された事例はない。放送法4条は放送番組の編集にあたり、「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めている。

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