2016年03月04日発行 1418号

【どくしょ室/安保法案 テレビニュースはどう伝えたか/検証・政治権力とテレビメディア/放送を語る会著 かもがわブックレット 本体600円+税/政権の“広報”支援NHK】

 戦後政治に大転換をもたらす安保関連法案(戦争法案)の国会審議をテレビはどのように伝えたのか。本書は市民団体「放送を語る会」がNHKと民放キー局の代表的なテレビ番組をモニターした結果をまとめたものである。

 5か月間に及ぶ番組チェックを通して浮かび上がってきた最大の問題は、NHK政治報道の政府寄り偏向だという。それは「政府の“広報”支援」「アベチャンネル」と批判されて当然の域に達していた。

 たとえば、テレビ朝日系「報道ステーション」とTBS系「NEWS23」で報じられた内容で、NHK「ニュースウォッチ9」が報じなかった事例には次のようなものがある。「ポツダム宣言を詳らかに読んでいない」とする安倍首相の答弁、「日本に対して攻撃の意思のない国に対しても攻撃する可能性を排除しない」とする中谷防衛相の答弁、戦闘中の米軍ヘリに給油する「後方支援」が「戦争参加」にあたるのではないかとする共産党議員の追及などなど。

 このような重要な項目がNHKのニュースだけ見ている視聴者には「なかったこと」にされてしまったのだ(本書巻末の一覧表参照。大変わかりやすい)。

 また、NHKニュースにおける政治部記者の解説は、政府・与党の方針、主張、思惑の説明が大半を占め、批判的な指摘はほとんどない。国会審議について「議論がかみ合わなかった」とコメントしても、その原因が政府のごまかし・はぐらかし答弁にあることには言及しないのだ。

 国会審議の伝え方にも問題がある。そもそもNHKのニュース番組は、「報ステ」等に比べて国会審議の紹介に充てられる時間が短い。その時間内で、与野党の質問、首相、あるいは防衛相の答弁という一問一答の編集スタイルが支配的だった。このスタイルでは、審議の紹介は必ず首相や防衛相の答弁で終わる形になり、政府答弁の印象が強く残る結果になる。

 「ニュースウォッチ9」の場合、与党質問2人、野党質問3人、それに必ず安倍首相の答弁を付けるスタイルが定型化していた。放送時間の比率で言うと、政府・与党主張7に対し野党の主張は3になる。公平性を装った編集が実は政府側に有利にできているのだ。

 市民の反対運動をNHKが極力黙殺したことは皆さんよくご存じだろう。8月30日の全国総がかり行動について、当日の「ニュース7」は2分程度の扱いだったし、翌日の「ニュースウォッチ9」は映像を30秒流しただけであった。

 ニュースキャスターの相次ぐ降板など、テレビの政府御用メディア化は加速度を増している。情報統制を許さぬために、市民による報道監視・抗議の取り組みが求められている。本書の綿密な記録、厳密な検証はその一助となろう。(O)
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