2016年03月11日発行 1419号

【2・28MDS集会/基調講演要旨/改憲・戦争・原発・貧困を推進する/安倍政権を倒すのは今/2000万人署名と沖縄新基地阻止の力で】

 2月28日、MDS(民主主義的社会主義運動)集会が開催された(4・5面に詳報)。佐藤和義委員長(東京)、山川義保副委員長(大阪)の基調講演要旨を掲載する。

9条改憲打ち出す安倍政権

 安倍首相は昨年9月「新3本の矢」を打ち出し「1億総活躍社会」を提起した。「経済最優先に戻って結果を出さないと改憲のハードルも高くなる」(12/26日経)と改憲より経済優先の方針を示していた。

 しかし、1月4日の年頭記者会見、続く1月22日施政方針演説、2月3日衆院予算委員会で改憲を明言した。安倍は「(自民党改憲草案では)9条2項を改正して自衛権を明記し、…将来あるべき憲法の姿を示している」と答弁。経済ではなく9条改憲を掲げ参院選に取り組むと明言した。

 なぜ、方針変更をしたのか。

 第1に、改憲パートナーのおおさか維新の会が11月の大阪府知事、市長選に勝利したことだ。1月18日参院予算委員会で「おおさか維新の会とも憲法改正の必要性、責任感を共有しているのではないか」と同党への強い期待を表明している。

 第2に、内閣支持率の回復。支持が回復し不支持を上回った。その上、宜野湾市長選で自民党支持候補が勝利した。

 第3に、最も根本的にはアベノミクスの破たんが明らかになり、安倍は経済面で国民をごまかすことができないことを自覚しているからこそ、今しかないと考えたのである。

破たんしたアベノミクス

 では、アベノミクスはどうなっているのか。

 安倍は就任直後の13年1月所信表明で「3本の矢」で経済再生を進めると表明。1月年頭会見で「3年間で雇用は110万人以上増え、17年ぶりの高い賃上げも実現」とアベノミクスの成果を強調した。

 完全失業率は12年の4・3%から15年11月で3・3%と下がったが、それは非正規労働者が12年の1813万人から15年11月の2010万人と200万人増えたことによる(表1)。また賃金は中小企業を含めると14年2・8%減である(1/20東京新聞)。



 安倍は「日本は世界の標準で見てかなり裕福な国だ」(1/18参院予算委員会)と言うが、事実は全く違う。

 相対的貧困率(所得の中央値の半分を下回る人の割合)はOECD諸国で第6位の高さだ。年収200万円以下のワーキングプアが14年で1140万人に達している。年間所得5億円以上の富裕層は10年の578人から13年の1415人へと増えた。企業業績がよくなれば貧困層もよくなるというトリクルダウンはなかったのだ(表2)。



 アベノミクスはグローバル資本にとっても限度に来ている。日銀のマイナス金利政策も国内投資を増やす力はない。海外投資か投機に向かうだけだ。マイナス金利の政府にとっての直接的利益は国債費負担が減ることである。

グローバル資本の利益のため

 安倍内閣の路線は徹底してグローバル資本の利益のためのものである。

 執拗な戦争法、改憲方針の根底には日本の資本輸出がある。日本の資本輸出は増え続け、15年9月時点で149兆円に達した。日本の銀行による海外投融資残高は3兆5千億ドル(約420兆円)で世界一だ。これら全世界に展開する日本の資本の利益を擁護するために自衛隊が全世界で武力行使する必要があるのだ。

 戦争政策は同時に軍需資本への市場創出策でもある。戦車、軍艦、戦闘機、ロケットは三菱重工、三菱電機などの軍需メーカーを潤す。

 原発政策もグローバル資本のためである。関西電力は高浜原発3、4号機再稼働で月当たり収益が100億円改善される(2/25毎日)。電力会社の利益は、電力会社の株を持ち電力会社に資金を供給している三井住友銀行をはじめ金融資本の利益である。原発輸出は三菱重工、日立、東芝に巨大な利益を保証する。

 全国で公務員を減らし全面的に民間委託する作業が進められている。「民間でできないことも民間にさせる」と50兆円もの市場がグローバル資本に提供される。マイナンバーも情報管理の側面と資本への市場提供の意味がある。

 労働者に対しては徹底した賃金削減を可能とする政策の推進である。金さえ払えば正社員を解雇できるようにすること、残業代ゼロとすること、すべて資本の利益を増やすためだ。安倍内閣は賃上げを要請していると言われているが、非正規を拡大する中でのわずかの賃上げにすぎない。同一労働同一賃金も低い方に統一する狙いがある。

 資本には税金をできるだけ負担しないでいいようにしている。法人税率は81年の42・0%から15年の23・9%に下がり、所得税の最高税率は74年の75%から15年の45%まで下げた(表3)。法人税の政策減税が14年度で1兆1954億円。うち62%が資本金100億円以上の大企業向けであった。なかでも研究開発減税6746億円のうち、トヨタ自動車が1083億円、日産自動車213億円、ホンダ210億円、JR東海192億円、キャノン157億円だ。


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 大企業、資本家に減税し、軍事費を増やすためには、社会保障費、医療費、教育費などを削減することが必要だ。

 社会保障関係費は毎年1兆円程度の自然増が必要だが、16年度では4997億円に抑え込んでいる。例えば40〜64歳の介護保険料は16年度一人当たり月5352円と過去最高となる。介護保険制度が始まった00年度で2629円だったのが倍増している。

 医療では70歳からの窓口負担が1割から2割になる。国立大学では運営費が10年間で19%削減され、大幅な学費値上げが予定されている。諸外国では当然とされている給付型奨学金も実行せず、市民の家計にすべてを負担させる。イージス艦1隻1734億円、トヨタ研究開発減税1083億円と比べてみればよい。

 安倍は、グローバル資本と資本家に巨大な利益を、一般市民労働者には生活破壊をもたらすこのシステムを維持するために改憲体制を構築しようとしているのだ。

諦めさせ、脅し排外主義へ

 安倍政権はこんなでたらめな政策をどのように推進しているのか。まず市民に、反対しても無駄だと諦めさせようとしている。また、考えさせないようにする。正社員労働者は長時間労働の中で、非正規労働者は低賃金、生活苦と先の展望を持てない中で、考えないようにさせられている。

 そして脅す。安倍政権に批判的な言動を徹底して抑圧する。NHK「クローズアップ現代」、テレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」で3月、キャスターが降板する。高市総務相は2月8日衆院予算委員会で政治的公平性を欠く放送が繰り返された場合、電波停止を命じる可能性があると発言。すべて安倍政権に批判的な言論を許さない恫喝である。

 さらに安倍政権は直接的に改憲勢力を組織しようとしている。現在各神社では1千万人を目標に「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲署名が行われている。

 また安倍は他のグローバル資本と同じく、排外主義を煽ることで1%のグローバル資本への批判をかわそうとしている。中国、朝鮮、韓国を批判することで自らの軍拡を正当化しようとしている。

 このような方策を駆使し安倍は1%の利益を守っている。

平和で平等な社会の実現へ

 われわれはどうすべきか。

 われわれが99%であり、安倍たちは1%の少数派であることに確信を持ち闘い抜くことだ。沖縄の人びとのオール沖縄≠フ闘いは明らかに日本全体の展望を示すものだ。

 2月23日参院選一人区の野党候補一本化を進めることで5党が合意した。衆院選を含めた野党共闘の大きな1歩だ。99%が連帯する客観的基盤は存在するから、運動の中で共闘の努力をすれば必ず実り、戦争反対・護憲勢力の統一は実現する。2000万人署名は共闘を作る闘いでもある。

 多くの市民労働者に対し、考えて行動しないとますます事態は悪化することを知らせていかねばならない。安倍の脅しは闘いを広げることで粉砕できる。世界で同じくグローバル資本主義と闘っている人びとが強く存在することを確信し連帯して闘うことだ。

 米大統領選では、民主党サンダース候補がニューハンプシャー州予備選挙で圧勝した。ヨーロッパではグローバル資本の進める緊縮政策に反発して反緊縮政策がすすめられようとしている。ポルトガルでは15年11月左派政権が成立し、スペインでは12月総選挙で、反緊縮のポデモスが躍進した。15年9月にはイギリス労働党党首に左派のジェレミー・コービンが選出された。このように世界で反グローバル資本主義の力が強くなっている。

 世界で最も裕福な62人が保有する資産は世界の貧しい半分36億人が所有する総資産に等しいという。バス1台に入る程度の資本家が36億人と同じ資産を持つというすさまじい不平等。古代の王と奴隷よりもひどい格差だ。しかも年々拡大している。

 全世界の人びとが十分に生活できるだけの富を人類は創り出している。しかし、それが一握りの資本家、グローバル資本に略奪されている。そのことへの全世界的な怒りが爆発しつつあるのである。

 日本でわれわれがなすべきことは、戦争法廃止、改憲阻止、沖縄辺野古新基地建設阻止、安倍内閣打倒である。99%の意思を貫く時である。
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