2016年03月11日発行 1419号

【株安・円高と 黒田マイナス金利 失敗あらわなアベノミクス 負担増で国民が犠牲に】

 年明けから世界の金融市場に異変が起きている。株価が上下動を繰り返しながら下降状態を継続し、世界同時株安となっている。そこには原油安や中国経済の減速、米国の利上げなどさまざまな要因があり、これらはグローバルな市場で共鳴する関係にあり何かのきっかけで連鎖して急に悪化する危険性に包まれている。日本もこの状況の下で株安と円高が進んだ。「株価連動内閣」たる安倍内閣を支えようと日銀はマイナス金利を打ち出したが、アベノミクスの破たんはもはやとりつくろえない。国民への負担転嫁を許してはならない。

つけは労働者・市民へ

 1月21日の国会で「マイナス金利は考えてない」と発言していた黒田日銀総裁は、1月29日にマイナス金利導入を発表した。一週間ほどで前言を翻したのだが、そうせざるをえないほど事態が深刻化していたことを物語る。これは、「異次元の金融緩和」を看板の一つとするアベノミクスが失敗したことを覆い隠そうとするものである。

 マイナス金利とは、銀行・証券会社などの金融機関が日銀に預ける当座預金の一部にマイナスの金利をつけること、預けた金融機関にとっては手数料を取られる政策のことである。黒田日銀総裁は住宅ローン金利や融資金利が低くなる側面を強調して「企業や家計にとってはプラスになる」というが、問題は知らず知らずにマイナス金利の悪影響が及ぶなど国民生活を直撃することにある。

 多くの銀行が預金金利を引き下げた。普通預金の金利年0・02%が0・001%へ引き下げられ、100万円預けても年10円の利息しか付かない。1回のATM利用で手数料108円を払うと赤字になる。黒田総裁は「個人預金がマイナス(金利)になるとは考えていない」と言うが、この一例がすでに預金をマイナスにしていることを示す。

 今後、振込手数料やATM利用料の引き上げ、生命保険料の値上げが予想され、景気がさらに悪化すれば預金そのものへの課税という話さえ出ている。ツケは必ず国民に回されるのである。

マイナス金利の狙い

 マイナス金利導入について日銀は大きく2つ説明した。

 一つは、「従来の『量』と『質』に『マイナス金利』を加えた3つの次元で、追加的な緩和が可能なスキーム(手法)」でさらにアベノミクスを進めようということだ。

 2013年4月に日銀は、長期国債の日銀買い入れの「量」と買い入れの残存期間の延期などの「質」を「異次元の金融緩和」として打ち出した。だが、うまく行かず、マイナス金利という追加の緩和手段を出さざるをえなかった。日銀は現在、年間約80兆円の国債を買い入れている。そのため国債保有額が約290兆円(2/10現在)へと膨らみ、保有率は30%に達した。現行の買い入れペースを続けると数年後には買い入れ自体ができなくなる。また、金融機関が国債という金融商品からの利益減少と資金の運用先縮小を強いられるため、これらを避けて今後も日銀による買い入れ緩和を続けられるようにする必要があった。

 もう一つは、目標にかかげるインフレ率2%で「物価安定」を実現させるために円安と株高を維持することである。

 マイナス金利で金利全般を低下させれば、銀行が日銀に預けるより融資に回すことを増やし、個人も銀行に預けるより使おうとするだろう≠ニ日銀は考えた。その思惑は外れ、円高と株安が進行している。資金需要を示す銀行の預貸率が6年連続で低下しているように、銀行は融資先に困っている。個人にしても、金利が低いからと預金を消費に回す者などいない。2011年に840兆円だった個人の現預金は2015年には890兆円に増えている。収入が増えない中で、マイナス金利は生活の先行き不安をさらに高め、個人はますます預金に励むしかなくなる。



 日銀の説明の裏に隠された狙いがある。政府は1045兆円(15年末現在)に積み上がった借金の圧縮を迫られている。マイナス金利はそのための手段として使われようとしている。マイナス金利の対象が当面23兆円となることから日銀は金融機関から230億円を受け取る。それは政府にとって国債利払い額が減ることでもある。マイナス金利対象額が増えるにつれて政府の借金利払いを減らしていく巧妙で姑息な手段だ。つまり、先に示した預金金利引き下げ、手数料負担などの形で国民への負担増として転嫁されていくことを意味する。

グローバル資本の規制を

 こうした不正常であからさまな国民収奪まで起きるのはなぜか。

 1990年にGDP(国内総生産)総額23兆ドル、金融資産40兆ドルであった世界経済が、2012年時点ではGDP72兆ドル、金融資産269兆ドル。実体経済の3・7倍も金融が肥大化している。カネ余り状態が急速に進み、そのため投機的マネーが暴走している。100年に一度といわれたリーマン・ショックや現在の世界同時株安など危機の元凶がここにある。

 金融資産の多くをグローバル資本が保有している。世界の上位62人の超大富豪が下位の36億人分を超える資産を保有する。経済の金融化は、搾取と収奪を強めて極端な貧富の差を生み、格差拡大と貧困化の原因となっている。

 世界の圧倒的な富を集めながらグローバル資本はなお貪欲に儲け口を探している。大量のカネが儲けの場を求めて瞬時に動いており、株価や通貨の乱降下を生んでいる。犯人はグローバル資本の投機的マネーにあり、これを制御しないと問題は解決しない。グローバル資本への規制と課税の強化が直ちに必要だ。それと真逆であるカネ優先のアベノミクスを退場させなければならない。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS