2016年03月11日発行 1419号

【議員定数削減のまやかし/「身を切る改革」と称した茶番劇/民意を切り捨てる小選挙区制には触れず】

 安倍晋三首相は衆院の議員定数削減について、2021年以降とする自民党案を撤回し、早期実現を図ると言明した(2/19衆院予算委)。衆院議長の諮問機関「選挙制度調査会」が出した答申に沿って小選挙区で6、比例区で4の計10議席を削減するという。

 おそらくは今国会中に関連法案が提出されるとみていいだろう。しかし、衆院の選挙制度改革は「一票の格差」を是正することが出発点のはずだ。それがなぜ定数削減とワンセットで語られるのか。小選挙区における「一票の格差」が問題なのに、なぜ比例区の定数削減が当然のように行われようとしているのか。どう考えても筋が通らない。

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 衆院の議員定数は現在475。議員1人あたりの人口を算出すると約26万8千人となる。英国庶民院(定数650)は約9万8千人、フランス国民議会(定数577)は約11万1千人、イタリア代議院(定数630)は約9万6千人だ。諸外国に比べ、日本の衆院議員数が決して多くないことがわかる(むしろ少ない)。

 安倍首相の言う定数10減が実現すると衆院定数は465。1925年に普通選挙が実現したときの定数は466。つまり人口が現在の半数程度だった時代よりも少なくなってしまうのだ。明らかに、主権者の多様な意見を反映させる議会のあり方に反している。

 しかも議員定数の削減は、国会の最も重要な役割である政府の監視という機能を低下させる。行政府の長である安倍が議員定数の削減を「身を切る改革」のごとく喧伝すること自体、おかしな話なのだ。

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 「一票の格差」がなぜ問題なのかというと、投票価値の不平等をもたらすからである。違憲の判断を下した広島高裁岡山支部の判決(2013年3月)はこう述べている。「国民1人1人が平等の権利でもって代表を選出するからこそ、国民の多数意見と国会の多数意見が一致し、国民主権を実質的に保障することが可能になる」

 現在の国会はどうか。改憲賛成派の議員が8割を超える事例が端的に示すように、「国民の多数意見と国会の多数意見」は大きく乖離(かいり)している。こうした事態をもたらした最大の原因が小選挙区制であることは言うまでもない。

 直近の2014年末の衆院選結果をみると、自民党の小選挙区における得票率は48%なのに、議席占有率76%にあたる233議席を獲得した。その一方で、候補者の得票のうち議席に結びつかなかった「死票」は全国で約2541万票にのぼり、小選挙区得票の48%を占めた。

 現在の選挙制度改革論議は、メディアの論調を含めて、最も重要な「民意の正確な反映」が抜け落ちている。小選挙区制という民意切り捨て装置に手を付けず、議員定数の削減を「改革」と偽る−−これをペテンと言うのである。  (O)
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