2016年03月18日発行 1420号

【沖縄・辺野古 代執行裁判で和解 闘いと民意が工事を止めた 「一時でなく永久中止だ」】

 それは突然の発表だった。

 3月4日正午前、NHKの天気予報中に「政府、辺野古埋め立て工事中止の和解案を受け入れへ」とテロップが流れた。続くニュースで「国と沖縄県の和解合意、埋め立て工事中止」が伝えられ、安倍晋三首相の会見が行われた。

県と国の和解成立

 名護市辺野古の埋め立て承認取り消しをめぐり国が翁長雄志(おながたけし)沖縄県知事を訴えた代執行裁判で4日、福岡高裁那覇支部において和解が成立した。

 和解の骨子は、(1)県と国は承認取り消しをめぐってそれぞれが起こした訴訟を取り下げる(2)沖縄防衛局は取り消しに対する審査請求・執行停止申し立てを取り下げ、工事を直ちに中止する(3)国は承認取り消しについて是正を指示、県は不服があれば指示の取り消し訴訟を起こす。双方、判決に従う(4)判決確定まで普天間飛行場返還と埋め立てについて円満解決に向け協議する。

 つまり、―国と沖縄県との間の三つの裁判を取り下げ、辺野古埋め立て工事は中止する。昨年11月の翁長知事が埋め立て承認を取り消した時点にさかのぼって、改めて国は県に対して埋め立て承認の取り消しを「是正」する指示を行い、県は不服の場合、国地方係争処理委員会に審査請求する。その判断を受けて県は国を相手に新たに訴訟を起こし、判決に国と県は従う―というものだ。裁判の決着がつくのに1年はかかるといわれてれる。

現地とオール沖縄の力

 翁長知事は安倍首相との会談後「とにかく工事を止めた。これからも信念を持って阻止する」と語った。

 あれほど新基地建設に固執し違法行為も承知で頑強に工事を続けてきた安倍政権を工事中止に応じさせたものは何か。現地の闘いとオール沖縄の民意の力だ。安倍は内外の批判がこれ以上広がることを恐れたのである。

 何より、2014年7月から連日の市民によるキャンプ・シュワブゲート前と海上での阻止行動が工事の遅延を余儀なくさせていた。代執行裁判には、オール沖縄会議の呼びかけで毎回1000人、1500人が結集し激励した。2・21辺野古新基地阻止行動では国会包囲や全国で3万人を超えるなど、新基地阻止の声は回を重ねるごとに広がっている。戦争法廃止、改憲阻止の闘いと結びつき、安倍の改憲戦略に影響を及ぼしかねない事態となりつつあった。

 国内だけではない。翁長知事の訪米要請行動などで米国政府内部でも「辺野古移設」に慎重論が出始め、国務省の一部から沖縄を刺激しないようにと工事中断の打診も出ていた。加えて、工事自体、名護市や沖縄県との事前協議を抜きに「設計概要」や「施行順序」など変更申請をしても許可が得られないことは明白で行き詰まっていた。

 安倍政権は和解―工事中止に追い込まれたのである。

 工事は最低でも1年はストップする。闘いが政府を動かしたのだ。

 和解の一報が入ったのは、ゲート前で「三線(さんしん)の日(3月4日)」に合わせて三線を弾き「かぎやで風」などを踊っていたときだ。「政府が和解に応じ工事は中止」の連絡が入ると全員で歓喜のカチャーシーで祝い、「ついにやったぞ」の雄叫びがとどろいた。

 ゲート前のリーダー、沖縄平和運動センター議長の山城博治さんは「大きな節目だ。ついに自主的な工事中断に追い込んだ。こんなに早く成果が出るとは夢にも思わなかった。県民と全国から駆け付けた仲間の力のたまものだと感謝している。確実に運動は広がっている」と声を上げた。

断念まで体制強化

 今回の和解合意に、安倍政権による選挙対策、偽装工作の狙いがあることはもちろんだ。6月県議選と7月参院選などで辺野古埋め立て工事強行の政治争点化を避け、県議選で巻き返し、沖縄担当相の島尻安伊子落選を阻止する必要があった。また、次の違法確認訴訟では国は敗訴しないと予測し、1年間工事を延期してでも新基地建設をより確実に進めることを狙っている。

 だが、埋め立て工事を中断させた意義は大きい。闘う側にとって、1年間、闘う体制を強化する時間的余裕が生まれる。ゲート前や海上の厳しい行動で身体を壊していた仲間が再起できる機会を得た。

 ゲート前のリーダーの一人、上間芳子さんから声が寄せられた。「安倍政権のことだから絶対、気を緩めてはならない。ゲート前の体制を緩めるのではなく、より一層強化し、工事の一時中止から永遠の中止に向けて闘おう、本当の勝利に向け辺野古断念まで闘おう、とゲート前ではマイク発言が続いている」

あらゆる手法で阻止

 安倍は和解後もなお「辺野古が唯一の選択肢」とうそぶく。政府は、新たな訴訟で勝訴した後、再び埋め立て工事に着手するつもりだ。これに対し県は、最高裁まで闘い、仮に敗訴しても、埋め立て承認の撤回や工事設計概要の変更申請の却下など、いくらでも闘い続けることは可能だ。「あらゆる手法で辺野古新基地建設は阻止する」と公約した翁長知事のマブイ(魂)は揺るがない。    (N)



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