2016年03月18日発行 1420号

【ドクター林のなんでも診察室 本格検査でも甲状腺がん多発歴然】

 2月15日、福島県県民健康調査の集計結果が発表されました。同調査には2011年、12年、13年度対象地域に分けられた「先行検査」(以下「先行」)と、14年4月2日から開始され「本格検査」(以下「本格」)があります。ここでは「本格」の結果を検討します。

 「先行」も「本格」も一部を除き同じ集団を検診しています。このように繰り返し同じ集団に実施するがん検診に関する世界中の文献を集めて検討した上で、福島のデータを分析して、昨年12月の大阪小児科学会に発表しました。それを今回発表のデータでまとめ直してみました。

 「先行」と「本格」の基本的な違いは、「本格」が検査対象とした集団は、「先行」で直径5mm以上のがん112人を除いていることです。そのために、「本格」で発見された5mm以上のがんは、「先行」以前には5mm未満で「先行」以後に大きくなったがんか、「先行」以後に新たに発生したがんのいずれかです。その他に、集団検診に付きものの見逃しもあります。理由は省きますが、「先行」で見逃されたがん数と「本格」で見逃されるがん人数はほぼ同じと考えられるので、ほとんど無視できます。

 そこで、「先行」実施後に「本格」で合わせて51人発見されたがんの意味を見てみます。10万人当たりがん患者は11年度の地域で47人、12年度24人、13年度7人でした。この数字でも「先行」に近い発見率です。しかし、2次検査結果の確定はまだ60%しか済んでいなく、これらは残りの40%からがんが一人も発見されない場合の数字です。普通に考えて、40%の人からもこれまでと同率で発見されたとするとその数はそれぞれの地域で58人、33人、28人です。「先行」が、それぞれ34人、40人、35人ですから、「先行」が実施されて以後、1年から3年の間に「先行」で見つかった以上に、がんが大きくなって発見されることになります。

 これらの数字をより正確に評価するためには、一年間にどれだけ発見したかを計算することや、対象年齢が上がることなどを考慮しても、「本格」での発見率は「先行」のそれに近い異常に高いものでした。今回の「本格」の結果は甲状腺がん多発をますます明確にしています。

 ところで、国際環境疫学会は、津田敏秀岡山大学教授の福島での甲状腺がん多発を明確にした論文掲載を踏まえ、住民の福利に責任を持つべき環境省と福島県に対し、「福島県民の健康を科学的に記録し追跡し、2011年の事故のリスクについて理解を深め、評価するような手段を講じる」ことなど注意喚起しています。政府は環境汚染と病気との関連に関する世界で最も権威ある学会の要請にきちんと応えるべきです。

   (筆者は、小児科医)
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