2016年03月25日発行 1421号

【大津地裁が高浜原発運転差し止め 稼働中原発で初の停止 再稼働強行の安倍に痛打】

 大津地裁の山本裁判長は3月9日、滋賀県の住民29人の訴えを認め、稼働中の関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止める仮処分を決定。翌10日、原発は停止した。昨年4月の福井地裁決定(樋口裁判長)に続く今回の決定は、福島原発事故を過去のものとし避難者切り捨てと再稼働に突き進む安倍政権に痛打を浴びせ、全国の原発訴訟を勇気づけるものだ。

立証責任は関電に

 決定は、まず、主張立証責任がどちらにあるかを取り上げ、原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて行政庁が保持している点を考慮すると、まず行政庁が不合理な点がないことを立証すべきとした伊方原発訴訟最高裁判決を踏襲。「本件においても、債務者(関電を指す)において、依拠した根拠、資料等を明らかにすべきであり、その主張及び疎明(釈明)が尽くされない場合には、電力会社の判断に不合理な点があることが事実上推認される」とした。

 そして決定は、福島原発事故を踏まえた過酷事故対策についての設計思想や外部電源に依拠する緊急時の対応方法に関する問題点、耐震性能決定における基準地震動策定に関する問題点について危惧すべき点があり、津波対策や避難計画についても疑問が残るなど、債権者らの人格権が侵害されるおそれが高く、被保全権利は存在するとした。

 その上で決定は、3号機は本年1月29日に再稼働し4号機も2月26日に再稼働したから、保全(=運転停止)の必要が認められる、とした。

新基準策定姿勢を断罪

 今回の決定の根底にあるのは、新規制基準への不信と関電の安全対策への疑問である。

 決定は、福島原発事故の原因究明は進んでおらず今なお道半ばの状況であり、関電が主張するように津波が主たる原因かも不明であるとし、この点に関電や規制委員会が意を払わないのであれば、「新規制基準策定の姿勢に不安を覚えざるを得ない」とした。

 さらに、関電の主張や疎明(証明)の程度では、新規制基準及び高浜原発に係る設置変更許可が「直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」と批判。

 新規制基準に関する具体的な事例としては、使用済み燃料プールの冷却設備を取り上げ、原子炉と異なり一段簡易な扱い(Bクラス)となっているが、本来基本設計の安全性に関わる重要な施設として安全性審査の対象となるべきものと批判した。

過酷対策・避難計画も指摘

 関電が過酷事故対策として挙げるディーゼル発電機についてはその起動に失敗した例は少なくなく、また空冷式非常用発電装置の耐震性能を認めるに足りる資料はない。電源車等の可動式電源については、地震動の影響を受けることが明らかであり、「このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたといってよいか、躊躇せざるを得ない」と疑問を呈した。

 決定は、基準地震動の算出方法自体を直接否定はしない。

 だが、関電の調査が海底を含む周辺領域すべてにおいて徹底的に行なわれたわけではなく、断層の長さを長めに設定したからといって安全余裕をとったとはいえないとする。さらに、その断層の地震力を算出するのに用いた「松田式」についても、想定される最大の地震力を与えるものとは認め難いとし、基準地震動Ss―7の水平加速度700ガルを基準地震動としてよいか、十分な主張及び疎明がされたとは言えないと指摘した。

 津波に対する安全性能に関しては、1586年の天正地震については海岸から500mほど内陸で津波堆積物を確認したとの報告もみられ、「大規模な津波が発生したとは考えられない」という関電の主張には疑問が残るとした。

 決定のもう一つの特徴は、国が避難計画を自治体に丸投げし責任を回避している点を批判したことだ。

 決定は「国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定される必要があり、避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれる。そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生している」とした。

 関電に対しても、「新規制基準を満たせば十分とするのだけでなく、その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要がある」とし、その点の説明は不十分であるとした。


反原発運動と民意の力

 今回の決定は、再稼働し稼働中である原発を止める初めての決定だ。しかも、立地自治体以外の周辺住民の訴えが認められた。安倍政権の再稼働強行政策に与える打撃は極めて大きい。決定を出させた力は、全国で粘り強く取り組まれるさまざまな反原発の行動と再稼働反対の民意だ。

 昨年の福井地裁に続いて違う地裁、違う裁判長が停止命令を出したことは、全国で闘っている原発訴訟を励ますものだ。伊方原発運転差し止め訴訟の薦田(こもだ)伸夫弁護団長は「全国の原発訴訟に与える影響は大きい。伊方原発訴訟についても非常に勇気づけられた」(3/11朝日)と語る。

 批判された規制委の田中委員長は「現在の基準が世界最高レベルに近付いているという認識を変える必要はない」と開き直り、菅官房長官も「世界最高水準の新規性基準に適合すると判断されたもので、再稼働を進める方針に変わりはない」と平静を装う。だが、安倍政権は追い詰められている。福島原発事故を過去のものとして再稼働に突き進む安倍政権を追い込むチャンスだ。

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