2016年03月25日発行 1421号

【エスカレートする安倍改憲発言/海外派兵違憲「解消」に焦り】

 年頭から安倍晋三首相が改憲発言をエスカレートさせている。「任期中に改憲実現」との意欲をあからさまにした。参院選まで経済政策のみで乗りきるつもりだった安倍が方針を変えた。3月末の戦争法施行による「殺し殺される」事態を「合憲化」するラストチャンス≠ニの焦りだ。

2年半で9条改憲狙う

 年頭から改憲を口にした安倍首相は、2月3日の衆院予算員会で憲法9条「改正」を、3月2日の参院予算員会では「在任中に成し遂げたい」と発言した。自民党総裁の任期は2018年9月。2年半の間に「戦争ができる憲法」に改変する、と明言したのだ。

 主権者である国民から憲法にのっとった行政権行使だけを許された総理大臣が、従うべきルールが気に食わないと発言すること自体、異常である。ルールに従うのが嫌なら辞任するのが当然であって、自分の都合のいいルールに変えるなど言語道断。明確な憲法第99条「国務大臣、国会議員、その他公務員の憲法尊重・擁護義務」違反だ。

 93年の細川連立政権の時、野党だった自民党は、故中西啓介防衛庁長官(当時)が「半世紀前にできた憲法に後生大事にしがみつくのはまずい」とした発言を「憲法尊重義務違反」と追及、辞任に追い込んだことがある。発言は国会ではなく、勉強会の場だった。この基準なら、国会答弁で改憲発言を連発する安倍など即刻辞任に値する。

狙いは集団自衛権行使

 9年前、第1次安倍政権発足直後の07年頭会見で「私の内閣で憲法改正を目指すということを当然、参院選でも訴えていきたい」と安倍は語った。以降、改憲を出しては引っ込め、様子をうかがってきた。どこを変えるかも明言は避けた。今回の「在任中の改憲」をこれまで同様の「観測球」と見ることはできない。

 3月末、戦争法施行が迫る中で違憲状態≠続けるわけにはいかないのである。自衛隊による発砲=殺し殺される事態を想定しているからだ。イラク特措法で行った米軍輸送は違憲との確定判決がある。「合法だが違憲」では自衛隊員が命をかけることを強要するには無理がある。

 安倍は、「7割の憲法学者が自衛隊は違憲の疑いを持つ。その状況をなくすべき」と発言した。どうなくすのか。自民党改憲草案はこうだ。現行9条2項の「陸海空軍その他戦力を保持しない」「国の交戦権は認めない」を「自衛権の発動は妨げない」に置き換える。新たに9条の2を設け「国防軍を保持する」と明記する。安倍の真意は、ほとんどの憲法学者が違憲とする集団的自衛権行使=戦争法を合憲化する≠アとにある。

 在任中に改憲を発議するには、今夏の参院選でおおさか維新の会など改憲勢力3分の2を確保することが絶対条件だ。安倍政権はあらゆる手をつかってくるだろう。消費税10%引き上げ延期、衆参同時選挙、そしてマスコミ統制世論誘導。今後、どれほど目くらましが飛び出そうとも、今夏の選挙は、戦争法廃止、9条改憲阻止が最大の争点だ。

 安倍内閣がかろうじて40%台の支持率を維持しているのは、景気回復への願望をかすめ取っているからにすぎない。安倍自身「新三本の矢」で選挙を闘うことに不安を感じ、「保育園落ちた」問題でうろたえている。沖縄新基地建設工事は中止に追い込まれ、高浜原発は再稼働停止が命じられた。政権のもろさが露呈し始めた。

市民の力で「野党は共闘」

 「在任中の改憲」と決意を述べた日の夜、安倍は自民党のパーティで「せっかくできた平和安全法制(戦争法)と日米の絆を壊そうとしているのが民主党と共産党だ」とし「『自公対民共』の対決に負けるわけにはいかない」と檄を飛ばした。この意を受けて自民党は野党共闘を批判するビラを作った。「『理念なき民主党』と『革命勢力・共産党』の打算と思惑の産物」と揶揄(やゆ)。こんな陳腐なレッテル貼りをする以外に手がないところに、安倍の焦りがある。

 民主党内には共産党との共闘を躊躇(ちゅうちょ)する傾向もある。野党共闘の実現は戦争法反対の闘いをリードした市民が鍵を握っている。「戦争法廃止」「野党は共闘」。昨年来の運動は、現在「2000万人統一署名」運動へと継続、拡大している。この国民的運動を成功させ、野党共闘実現、選挙勝利で、改憲に突き進む安倍政権を打倒しよう。

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