2016年03月25日発行 1421号

【消されゆく原発避難者/飯舘村長「友達と別れても村に帰れ」/住民要求を無視した帰還強要】

 原発事故による強制避難の象徴的存在となり、5年が過ぎた飯舘(いいたて)村。菅野(かんの)典雄・飯舘村長の悪行≠ヘ、本が1冊書けるほどたくさん聞かされた。菅野村長の言動からは、国・自治体が結託して進める帰還政策の本質が見えてくる。

  

「別れも人生」と強弁

 2011年4月に計画的避難区域になってから、菅野村長は避難政策に批判的だった。「このままでは村がなくなる」と一貫して帰還を画策、帰還につながる政策ならどんな卑劣な手段を使っても強行してきた。

 その象徴が、昨年10月7日、村教育委員会の設置した「学校等再開検討委員会」の第1回会合だ。ここで菅野村長は、2017年4月に村内の学校を再開したいと、突如提案したのである。飯舘村では、汚染が最もひどく唯一帰還困難区域となった長泥(ながどろ)地区を除けば、すべて居住制限区域や避難指示解除準備区域だ。その国による解除とともに、区域外避難者への住宅支援も打ち切られるのに合わせた形だ。

 強制避難となった飯舘村の子どもたちは、現在、村が川俣町内に設けた仮設の学校に、各自、避難先からスクールバスで通う。村長の提案は、この仮設の学校を廃止し、村内に戻したいというものだ。帰還しない家庭の子どもたちは、避難先の学校に転校せざるを得なくなり、友達関係は引き裂かれてしまう。

 驚いた地元のPTA会長らが村民に行ったアンケートでは、2017年4月の帰還に「まだ早い」との回答が71・9%を占めた。「賛成」はわずか2・4%に過ぎなかった。学校再開が強行されても「(あまり、または絶対に)通わせたくない」が86・2%に上った。

 だがそれでも菅野村長は全く考えを変えなかった。今年1月19日、菅野村長と飯舘中学校1年生の生徒との間で行われた「村長さんと語る会」で「(仮設学校で)みんなと一緒に卒業したい」と涙ながらに訴える中学生に対し、菅野村長は「物事には必ずよい面と悪い面がある。人生にはそこを判断せざるを得ないときがある」と言い放った。別れもまた人生≠ニいうのだ。

 東日本大震災の時、国はメディアを総動員して「絆」をやたら強調。原発事故で「自主」避難しようとする人びとには「絆」の名で攻撃が浴びせられた。しかし、子どもたちの生きる基盤である友達関係を破壊してまで帰還を強要する菅野村長を見ていると、この「絆」など全くの方便にすぎないことがよくわかる。

決定的な「裏切り」

 菅野村長の悪行はこれだけではない。2013年1月、蕨平(わらびだいら)地区住民が、帰還困難区域である長泥地区と同じ財物賠償(土地・家屋などに対する賠償)を求めてADR(裁判外紛争解決手続き)に申立てを行った。蕨平は長泥地区に隣接、場所によっては長泥と変わらない高い線量が計測されており、ADRは訴えを認めた。居住制限区域にも帰還困難区域と同様の賠償を認める画期的な内容だった。

 だが、菅野村長はあろうことか、数土文夫・東電会長に対し、この和解案を受け入れないよう求める要求書を村民に隠れて提出していた。「東電がこの要求を受け入れた場合、住民が帰還しなくなる恐れがある」というのだ。

 菅野村長のこの決定的裏切りは、その後のADRの行方に大きな悪影響を与えた。特に、浪江町民が行った集団申立てでは、大半の町民が参加しているにもかかわらず、東電が4度にわたってADRの和解案受け入れを拒否。浪江町民は結局、裁判に訴えざるを得なくなったのである。

村民アンケートで帰還に7割、学校再開に8割が反対しても、中学生たちが涙ながらに訴えても政策を変えない。ADRで賠償を求める住民の闘いも裏切りによって破壊する―この民意無視を「独裁」という。

 アンケートでは「大人が帰村をためらっているのにまず子どもからとは許せない」「子どもを人質に取られているようだ」との厳しい批判が相次いだ。地元誌『政経東北』は「領土も住民もなく行政サービスもできないのに役場だけがあっても意味がない」として、菅野村長に「廃村勧告」を突きつけた。菅野村長に対する「包囲網」は徐々にではあれ作られつつある。

住民に選択肢を

 原発事故後の2012年10月に行われた村長選では、菅野村長以外に誰も立候補せず、無投票で再選された。これだけ多くの住民が反村長の意思表示をしているのに、村長に代わる選択肢を用意できなかった村政野党にも大きな責任がある。

 安倍「独裁」暴走が止まらないのは中央政界も同じ。飯舘村は日本の縮図だ。

 飯舘村では今年10月、また村長選がある。国政でも飯舘村でも、与党に代わり住民意思を体現する新たな選択肢を示して、帰還強要政策を転換させなければならない。

       (水樹平和)
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