2016年04月15日発行 1424号

【どくしょ室 国家戦略特区の正体―外資に売られる日本 郭洋春著 集英社新書 本体720円+税/強欲企業やり放題特区】

 安倍政権は成長戦略の第三の矢として「規制緩和などで企業や個人が真の実力を発揮できる社会実現」を掲げている。その第三の矢の柱に位置づけられているのが国家戦略特区構想である。本書は国家戦略特区の正体をを明らかにする目的で著されたものである。

  特定地域にのみ国内の法律規制を緩和し、外国企業を積極的に誘致する国家戦略特区は2014年の第一次指定で東京圏、関西圏を、昨年は愛知県や仙台市を指定し、今後も大都市圏中心の指定で日本のGDP(国内総生産)の5割を超える経済圏に及ぶという。

 著者はこのような指定のあり方から「異形の経済特区」と呼んでいる。本来、経済特区は発展途上国が経済成長を促す目的で、沿岸部や国境地帯にエリアを設け、外国企業を誘致するものであり、先進国である日本が特区を設けること自体が異例であるからだ。

 「異形の経済特区」は、安倍政権にとっての「岩盤規制」を打ち砕くためのものでしかない。安倍は「これまでの既得権益層の抵抗が強く規制緩和が進んでいない分野」と「岩盤規制」を定義し、雇用、教育、医療などを挙げる。しかし、これらは、人びとの生活や生命に直接関わるきわめて公共性の高い分野であり、その法制度を「岩盤規制」と敵視し、市場原理にゆだねることは到底理解できないと著者は述べている。

 本書では、「国家戦略特区」が生みだす問題点を具体的に挙げている。

 関西圏など医療分野の特区では、特定医療機関で外国人医師の診療や国内未承認の薬品の使用を認め、保険外診療と保険診療の混合診療を認めている。混合診療が一般化されれば、政府は国の保険費用軽減のため保険適用治療を縮小する。十分な治療を受けようとすれば高額な保険外診療を選択することになり、低所得層ほど医療から排除される。

  雇用分野では、「一定以上の年収がある者を法定労働時間の適用除外(残業代ゼロ)」「解雇規定の規制緩和(解雇自由)」を「ビジネス特区」に適用する。この内容は、橋下前大阪市長が2014年に発案し大阪府・市共同で政府に提案したものだ。「ブラック企業特区」と批判される内容は安倍政権が狙う「残業代ゼロ法」など労働法改悪の先取りに他ならない。

 特定自治体に特例法を認める場合、住民投票の可否が必要と憲法で規定されている。安倍政権は憲法違反を犯してでも「岩盤規制」の破壊を強行している。

 本書タイトルは「外資に売られる日本」とあるが、安倍が目指すのは、外資参入も利用して日本のグローバル資本の利益が最優先される国内体制を作ることだ。

 格差と貧困を今まで以上に拡大させることは必然である。著者は、「国家戦略特区に象徴される利益のみを追求する新自由主義」を放置すれば将来に禍根を残すと訴えている。  (N) 
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