2016年04月29日発行 1426号

【パナマ文書をどうみるか/タックスヘイブンの実態に迫る/グローバル企業の「黒い聖域」】

 中米パナマの法律事務所から流出した顧客データが世界に衝撃を与えている。タックスヘイブン(租税回避地)の実態を暴露した通称パナマ文書のことだ。日本のメディアは外国首脳のスキャンダルとして報道しているが、問題はそれにとどまらない。タックスヘイブン最大の受益者は日本の大企業を含むグローバル企業だからである。

世界を揺るがす暴露

 問題の文書はパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」の顧客情報である。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が入手し、公表した。これまで秘密のベールに覆われていたタックスヘイブンの実態に迫る情報として注目を集めている。

 それによると、モサックは1977年から2015年にかけて、英領バージン諸島などのタックスヘイブンに21万社のペーパーカンパニー(事業活動の実態のない名目だけの会社)を設立していた。主な依頼主は欧州系の金融機関である。500以上の金融機関が計1万5600社の設立に関わっていた。

 誰がタックスヘイブンを利用しているのか、その一端も明らかになった。米国の経済誌フォーブスの世界富豪番付の上位500人のうち29人の名前がモサックの顧客リストに名を連ねていた。英国のキャメロン首相、ロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席など各国首脳の関与も発覚。資産隠し疑惑を追及されたアイスランド首相は退任に追い込まれた。

 今回公表されたのは膨大な量の文書の一部であり、詳しいデータ分析が現在行われている。ICIJによると、全貌公開は5月初旬の予定。グローバル資本主義を揺るがす一大スキャンダルに発展することは間違いない。

悪質な税金逃れ

 そもそも、タックスヘイブンとは何か。直訳すると「税の避難所」。法人税や所得税などの税率が極めて低いか、まったくゼロの国や地域のことを指す。ただし、税金の安さだけがタックスヘイブンの特徴ではない。「守秘性」や「法的規制の回避」の方がより重要なポイントといえる。

 たとえば、秘密保護法などで情報が隠されているので、各国の税務当局をもってしても実態把握が難しい。加えて、金融取引などへの法的規制が皆無に近い。ペーパーカンパニーでも簡単な手続きでつくることができる。つまり、税金逃れや資産隠し、資金洗浄やマネーゲームの舞台にはもってこいの場所なのだ。

 なお、英国ロンドンの中心部にあるシティや米国のデラウェア州など、ひとつの国の中にありながらその国の法律とは別の、企業に有利な法体系が適用されている場所がある。これらもタックスヘイブンだ。米英両国は世界最大規模のタックスヘイブンを自国内に抱えていることになる。

 今や世界の対外直接投資の3分の1、国際貿易取引の半分以上がタックスヘイブンを経由していると言われている。巨万の富を吸い込むこのブラックホールがグローバル経済の隠された中心地になっているのである。

 では、グローバル企業はどのようにして課税逃れをしているのか。典型例はグループ内取引によって利益をタックスヘイブン内の子会社(ペーパーカンパニー)に流し込む手口である(図参照)。

 米国の消費者団体が03年7月に発表した調査によると、米巨大企業トップ100社のうち82社がタックスヘイブンに2686もの子会社を持っている。保有数トップ3のバンクオブアメリカ、モルガンスタンレー、ファイザーは5年間納税ゼロである。また、英国会計検査院の調べ(2007年)では、英国大手700社のうち3分の1が本国で税金を払っていない。

 世界の資産家がタックスヘイブンに隠した金融資産の総額は2010年末の時点で推定21兆〜32兆ドル(約1650兆〜2500兆円)に達するという(英国の市民団体タックス・ジャスティス・ネットワーク調べ)。租税回避により失われた税収は2800億ドル(約22兆円)と試算されている。

日本企業も関与

 グローバル巨大企業や超富裕層が本来負担すべき税金を払わなかったつけは、増税や緊縮政策(公的サービスの切り捨て)という形で庶民に回ってくる。99%の生活を犠牲にして1%があくどい蓄財に励んでいるという構図だ。パナマ文書は各国首脳も身勝手なマネー亡者の一員であることを明らかにした。貧困と格差拡大に苦しむ人びとが世界各地で怒りを爆発させているのは当然である。

 ところが、菅義偉官房長官は「文書の詳細は承知していない。日本企業への影響を含め、軽はずみなコメントは控えたい」(4/6)と述べ、日本政府が調査に乗り出すことを早々に否定した。日本からも400もの人や企業の名が出てきたというのに、だ。

 パナマ文書の全容解明はこれからだが、日本の大企業もタックスヘイブンを税金逃れに使っている。東証に上場している時価総額の上位50社のうち45社がタックスヘイブンに354もの子会社を設立しており、資本金総額は8・7兆円に上る。典型的タックスヘイブンのケイマン諸島に限っても、日本の投資残高は世界第2位の55兆円に達しているのである(1位は米国)。

 安倍晋三首相は「日本を世界で一番企業が活動しやすい国にする」と言うが、これは「税金ドロボーに追い銭」以外の何ものでもない。パナマ文書をきっかけに、タックスヘイブンの闇に隠されている巨大な不正を徹底的に暴く必要がある。     (M)

  
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