2016年05月06日・13日発行 1427号

【熊本大地震が示す危険な川内原発/震災政治利用が危機を招く】

予見不可能な地震規模

 4月14日に命名された「熊本地震」は、震度7を記録し「本震」とされた地震をさらに上回る揺れが28時間後に発生。震源は大分県にもおよび、震度4以上は80回に近い(4/22現在)。気象庁は「過去の例があてはまらず、見通すのは難しい。少なくとも1週間程度は地震活動が続くと考え、強い揺れに警戒してほしい」と21日に発表した。この先本震が起こらないとは誰も言えない。警戒を強める他ない。

 こんな心構えも、絶対事故を起こしてはならない原発は例外のようだ。震源は、熊本県益城(ましき)町から阿蘇山を挟んで北東の別府―万年山(はねやま)断層及び南西の布田川(ふたがわ)断層、日奈久(ひなぐ)断層上に並ぶ。その先には、愛媛県の伊方原発、鹿児島県川内(せんだい)原発がある。せめて稼働中の川内原発は止めて、この先の地震に備えることは当然の措置ではないか。

 ところが九州電力、原子力規制委員会は運転をやめない。4月18日の臨時記者会見で、田中俊一委員長は「不確実性があることを踏まえて評価しており、想定外の事故が起こるとは判断していない」と答えた。大きな地震が来れば、原子炉は自動停止するし、繰り返しの地震にも施設は弾性変形の範囲でその都度元に戻るから大丈夫だと、不安の声を抑え込んだ。

虚構の上の耐震設計

 不確実性をどう踏まえたと言うのか。大阪府立大長沢啓行名誉教授によれば耐震設計のもととなる基準地震動(Ss)を決めるところから実にあやしい(毎日3/8)。

 基準地震動は、既知の活断層など震源を特定し推定する場合と特定せず直下型地震をモデルに計算する場合を比較し、大きい値をとる。川内原発のSs620ガル(加速度の単位。重力加速度1Gは980ガルに相当)は震源を特定しない場合で、2004年の北海道留萌地震をモデルに計算した。ところが、過去20年の間に、同様の内陸地殻内地震は16回記録されている。このデータをもとに旧原子力安全基盤機構(原子力規制庁と統合)が試算したところ1340ガルとなった。川内原発が炉心溶融事故につながるクリフエッジ(安全限度)1004ガル(1号機)を超える。

 今回の地震で川内原発での揺れは今のところ最大震度4だ。だが、益城町では、14日の震度7の時1580ガル、16日にも1362ガルに達した。直下型地震が起きた場合、炉心溶融事故につながりかねない計算結果がある。「不確実さを踏まえ」都合の悪い数値は見ないことにしているとしか思えない。東電が、福島原発で計算で出た津波高を無視したのと同じではないか。

 耐震設計は地震動にしても、建物等の施設にしても、計算しやすいようにモデル化される。実際に起こる事象を100%再現できるものではない。計算モデル(仮定)が現実に合っているかどうか、実際の地震で動きを比較する以外ない。だが、福島原発の地震による損傷は不明だ。その教訓すら得られていない以上、「不確実性」は残ったままである。原子炉建屋内の何百とある配管の接続部や支持金具の取り付け部など2度3度の地震でも当初と同じ強度を保つ保証はない。

人命最優先が政治の基本

 いまも進行している群発地震は気象庁の言うように「過去の経験がない」ものだ。改めて耐震設計を含め規制基準を再検討する必要がある。避難計画もそうだ。地震に強いと避難計画に組み入れられた新幹線や高速道路が寸断された。机上の空論であることが明らかとなった。

 東日本大震災、福島原発事故の時、浜岡原発をはじめ、すべての原発を止めて再検討をした。政治がすべきことは、一か八かのギャンブルではない。今すぐ川内原発を止め、耐震設計から避難経路まですべて見直すべきだ。カネより命を優先せよ。
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