2016年05月06日・13日発行 1427号

【未来への責任(199)戦後71年目の遺骨収集推進法(中)】

 2012年に日弁連が厚労省に提出した意見書では、遺族も「一種の人格権として、故人である、自己の親族たる死者の遺体・遺骨が、その尊厳に相応しい扱いを受けることを期待する権利を有する」とし、この権利は「宗教的人格権と位置付けることが可能であり、憲法13条1項及び20条により保障された基本的人権である」と明確に述べられている。そして、ただちに戦没者の遺骸の捜索・発見・収容に着手することを勧告した。

 一方、朝鮮半島から動員され死亡した韓国人軍人軍属の遺族ら韓国太平洋戦争犠牲者補償推進協議会も、2014年から2年連続で遺骸問題について厚労省に申し入れを行った。この日本政府への要請や国会でのロビー活動の場には、沖縄戦で父を亡くし「戦没者追悼と平和の会」を主宰する日本人遺族の塩川正隆さんと沖縄戦の遺骸収集をボランティアとして行っている「ガマフヤー」の代表の具志堅隆松さんが常に行動をともにしていた。二人は「家族を亡くした戦没者遺族の悲しみに国境はない」として韓国人遺族を差別的に取り扱おうとする厚労省に対し怒りをともにしている。

DNA鑑定を拡大

 国籍にかかわらず収集されたすべての遺骸からDNAを採取し、希望するすべての遺族から検体を採取し照合できるようにデータベース化を図らせることが日韓の遺族の共通の目標となった。しかし、厚労省は「国籍条項」とDNA鑑定の範囲をめぐり、(1)死亡者名簿等の記録資料から遺族を推定でき(2)希望する遺族から有効な検体が提供され(3)遺骸から鑑定に有効なDNAの抽出が可能、という3つの条件に合致しなければ鑑定を実施しないとする従来のかたくなな姿勢を崩さなかった。そのような中で昨年5月、参議院の厚生労働委員会で白眞勲(はくしんくん)議員が3条件を取り払うように追及した結果、対象範囲が拡大されることとなった。7月に開催された日韓議員連盟の共同声明において「旧日本軍軍人・軍属の韓国出身戦没者の遺骨収集・安置の問題について、DNA検査などに関して両国政府が対応するよう働きかけることで一致した」との文言が盛り込まれ、韓国人遺族の遺骸問題の解決への道筋が開かれたのだ。

 その後、今年2月18日の参議院厚労委で津田弥太郎議員は「韓国側から遺骨に関するDNA鑑定を依頼された場合」どう対応するのかと質問。塩崎大臣から「遺族の気持ちは国境に関係なく同じである。朝鮮半島出身者については、外交交渉に関わる問題であるが、遺族の気持ちに強く配慮をしていくべきという指摘、意向をしっかりと受け止め、韓国政府から具体的な提案があれば真摯に受け止め政府部内で適切な対応を検討する」との答弁を引き出した。

 そして法案には「戦没者の遺骨から抽出したDNA情報のデータベース化に当たっては、できるだけ多くの遺骨の身元を特定し遺族に引き渡せるよう、遺族からの幅広いDNA検体の提供の仕組みについて検討すること」との附帯決議が付されることとなった。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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