2016年05月20日発行 1428号

【みるよむ 2016年5月7日配信 イラク平和テレビ局in Japan イラク政府与党内の意見対立を市民はどう見るか】

 2016年3月、シーア派のムクタダ・アル・サドルらがバグダッドの政治中枢グリーン・ゾーン前で政府に対する抗議デモを行った。サナテレビは、イラク市民がこの問題をどうとらえているのかをインタビューした。

 イラクのアバディ政権は、石油価格の下落を口実に、国営企業労働者や公務員の賃金を数か月から半年間も支払わず、医療や教育を切り捨てる緊縮政策を進めてきた。「イスラム国」の対市民テロ攻撃が続発する一方で、「イスラム国」を攻撃するはずの政府軍の爆撃で何百人もの市民が命を失っている。

 政治不信も深刻だ。シーア派主導の政権の下で、政党や派閥に有力閣僚などのポストを割り当てる利権政治がまかり通り、大臣や国会議員は汚職のやりたい放題。イラクは汚職の汚染度が世界トップクラスの腐敗国家なのだ。

 ひどい政治に市民は当然怒り出す。政府を批判するデモや集会はイラク全土に広がっている。その中で、ムクタダ・アル・サドルが率いるサドル派がバグダッドのグリーンゾーン前で座り込みやデモを始め、反政府スローガンを叫びたてている。4月の終わりにはグリーンゾーン内にある国会議事堂に乱入する事件まで起こした。

権力内の意見分岐

 しかし、これは奇妙なことだ。サドル派はアバディ政権の与党として政権に参加している。インタビュアーのサジャド・サリームさんは「ムクタダ・アル・サドルは自分たちサドル派の大臣や政府幹部に責任を取らせる方が良いのではないでしょうか」とこの問題に切り込む。

 インタビューに答える女性活動家は「サドルたちがとなえる政党から独立した実務政府≠ヘとてもできないだろう」と予想する。他の評論家や政治家も、サドルの主張の実現性には懐疑的だ。サドル派の動きは、まともな統治が難しくなってきた権力内部の意見分岐の表れであるようだ。メディア関係者は「シーア派連合の中で内戦が起こらないかと大変心配し、恐れています」と発言する。何よりそうした流血の事態こそ憂慮される。

 市民はサドル派など支配勢力の延命策動を冷静に批判している。今イラクに必要なのは、国民の命と暮らしを守る民主的な市民・労働者の闘いとそれを実現する政府なのである。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



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