2016年05月20日発行 1428号

【ルポ・事故6年目の福島(上)/避難指示解除が迫る葛尾村/20b四方のオリの中で暮らせというのか】

 6月にも避難指示が解除されようとしている福島県葛尾(かつらお)村。阿武隈山系の山々に囲まれた人口1470人(4/1現在)ののどかな村を5月2日、訪ねた。

地下水検査結果も非公開

 解除の対象は、帰還困難区域を除く避難指示解除準備区域1290人と居住制限区域62人。村の産業は農業・林業・畜産業が中心だ。昨年度中に住宅周辺の山林や宅地・家屋の除染が完了し、表土5cbをはぎ取る農地の除染も始まったと村は発表している。飲料水はこれまで沢の水を濾過(ろか)して水道水としていたが、東電による深井戸掘削が開始されたという。

 ところが、まもなく避難解除というのに、道路脇や田んぼの至る所にフレコンバッグの山。農地の改良といっても、土壌汚染の検査は行われていない。大規模な仮置き場が作られた下ノ内(しものうち)地区では、そのすぐそばに新築中の木造建物が。高濃度汚染の材木やコンクリート、鉄骨など廃材も山積みされている。地下水に切り替えた飲料水の放射能検査結果は村のホームページでも明らかにされていない。

 村にある診療所はまだ再開していない。巡回バスで田村市や三春町の病院に通院せざるを得ない。

 かつて乳牛や食肉牛が育った牛舎は、鉄骨が錆(さ)びたまま放置されている。山林の除染は住宅周辺20bまでで、それより奥は効果がないとされる。原子力規制委員会の航空機モニタリングによる森林の空間線量は、村全体が県の伐採・搬出基準(毎時0・5マイクロシーベルト)を上回る。

ほとんどが反対の説明会

 4月10日、国と村が主催した避難指示解除の住民説明会。「半径20bのオリの中に閉じ込めるのと同じではないか」と鋭く批判したのは、葛尾村原発賠償集団申立推進会の代表・小島力(ちから)さんだ。「汚物を積んだトラックが人家に突っ込んで家中汚染し、一部作業して汚物を庭先に置き、作業を中断して賠償はしないと引き上げていく−加害者は刑務所入りか罰金刑だ。国民がやれば罰せられるのに、政府なら許されるのか」

 説明会では参加者300人のほとんどが「山林除染は手をつけず、除染のゴミ袋が村中に山積みされて解除とは何事か」「居住制限区域は帰還困難区域と隣接している。解除準備区域と同時に解除するのはおかしい」など、反対・時期尚早の意見だった。

 小島さんは、6月12日解除決定との新聞報道をめぐり松本允秀(まさひで)村長を追及。「解除を決定しておいて説明会を開くのは『文句を言わずに従え』と突きつけているようなもの。村として解除を受け入れると表明したのか」と詰め寄ると、松本村長は「記者会見での言葉足らずが誤解を招き、申し訳ない。解除はまだ決定されたわけではない」と返答した。

これでは帰れない

 申立推進会は昨年10月、村内の除染済み個所の放射線測定を行った。一昨年11月、昨年6月に続く3回目で、全体36か所を地表と地上1bで測定した。特徴は、9地点で地表よりも1bの高さの方が空間線量が高かったこと、前回と比較して10か所ではさほど変わっておらず5か所では高い数値が出たことだ。山林の放射能が風や雨で“移染”している。

 牛舎が廃虚と化した夏油(なつゆ)地区では、第1回の計測で毎時0・4マイクロシーベルトだった所が1年たって1・4マイクロシーベルトにはね上がった。田村市との境にある湯殿(ゆでん)地区は、地表で毎時1・23、2・21、1・95マイクロシーベルトと高いままだ。

 小島さんは「環境省は除染で村の空間線量が平均48%低減したというが、平均値では意味がない。住む所によっては高くなった場所もある。帰還させて、もしこれから原因不明の病気が多発し、死亡者が激増したら誰が責任をとるのか。チェルノブイリでは事故後30年過ぎてもがんや白血病、甲状腺疾患で苦しんでいる人が多数いる。これでは帰りたいけど帰れない」。(Y)



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS