2016年05月20日発行 1428号

【子どもを幸せにしない“不登校対策”法案は撤回を/責任を子どもに押しつけるな】

 不登校の子が学校以外の場で教育を受けられるよう支援する、とされる法案を超党派の議員連盟がまとめた。連休明け国会に提出し5月下旬にも成立の見通しという(4/29朝日)。法案は不登校の子どもたちを救うことになるのか。

  *   *   *

 「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律案」。4月28日、フリースクールと夜間中学に関わる二つの超党派議連の合同総会で共産・社民以外の党から了承された法案の正式名称だ。

 昨年、議連で検討されていた法案と比べると、まず名称から「多様な教育機会確保」の「多様な」が消えた。内容も、フリースクール支援に関連する条文が削られる一方、「不登校児童生徒に対する教育機会の確保等」という章が設けられ、学校が抱える問題は不問に付したまま、不登校の子に関する情報共有や特別の教育課程の整備、学校以外での学習活動に対する管理強化を図る“不登校対策”法案に変質している。

 最大の問題は、不登校の子どもを「学校での集団生活の心理的な負担その他の事由で就学困難な状況にある者」と定義し、不登校の原因は学校に適応できない子どもの心の弱さにあるとしたことだ。“学校に行けない弱い子”の烙印を押された子どもたちはさらに追いつめられ、いじめや自殺を生んできた学校のあり方、国連子どもの権利委員会からも是正を求められた「高度に競争的な学校環境」は温存・助長されていくだろう。

「人間」へのまなざしでない

 4月15日、衆院第1議員会館で不登校の当事者や親の会の代表らが記者会見し、法案の不登校対策部分の白紙撤回を求めた。

 「不登校・ひきこもりについて当事者と語りあういけふくろうの会」代表で、自らも不登校を経験した伊藤書佳(ふみか)さんは「法案は半歩前進ではなく、不登校の人たちが自ら切り開いてきた学校に行かない道を10歩20歩30歩後退させる。フリースクールに通う子は不登校12万人のうち4200人、3・5%。残る96・5%の、家にいたり時々学校に行ったりしている人たちの声は法案作成の中で一度も聞かれていない」と批判する。

 子ども相談室「モモの部屋」を主宰する内田良子さんは「子どもの自殺は新学期が始まる9月1日が突出して多い。学校を休めた子は命を絶たず、学校を休めなかった子が命を絶つ。不登校は『命の非常口』。法律で非常口を閉じないでほしい。学校を逃れた子どもたちは何より『そっとしておいてほしい』と求めている。すべての子に『安心して休む権利』の保障を」と訴えた。

 小学校でいじめにあい、中学2年から学校に行かなくなったという現在30歳の女性は「不登校になったとき言ってほしかった言葉は『あなたが生きていてくれるだけで私はうれしい』。これだけで十分。なぜ被害を受けた上、『教育機会の余地がある』という目で見られなければならないのか。『人間』に向けたまなざしではなく、『人材』を選ぶ選別です」と、当事者として強い反対の意思を表明した。

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS