2016年07月29日発行 1438号

【姑息な改憲誘導は通用しない 憲法審査会の策動を封じよう 改憲勢力3分の2も同床異夢】

 参院選結果を受け、安倍首相はさっそく憲法審査会での議論の進展を促(うなが)した。「改憲勢力3分の2超」といっても、その改憲対象は様々だ。しかも憲法を変える必要のない内容が多くをしめる。憲法壊すな、改憲許すなの声を強め、改憲発議などできない状況を強固にしなければならない。

憲法審査会論議を狙う

 安倍首相は7月11日、改憲について「民進党は『安倍政権の間は憲法改正をしない』と言っているが建設的ではない。憲法審査会において、真剣に議論していくべき」と促し、「わが党の案をベースにしながら3分の2を構築していく」と述べた。

 わが党の案をベースに≠ニいうのは、自民党単独では3分の2を確保できていないからだ。「今後の憲法審査会での各党の議論で収斂(しゅうれん)させていく」という。

 自民党憲法改正草案は、日本国憲法全条文を対象とする。国民の上に国家元首として天皇を置き、基本的人権を国家の利益=グローバル資本の利益に従属させ、自助の徹底で生存権を奪う。緊急事態の宣言で、憲法を停止し、首相一人に権力を集中させる。国防軍と軍法会議を創設し、集団的自衛権行使を可能とする。

 与党の公明党は、「加憲」を掲げる。新しい人権として登場している環境権・プライバシー権を基本的人権として憲法に「加える」。

 安倍・自公の補完勢力、おおさか維新の会は「経済的理由によって教育を受ける機会を奪われない」「幼児期の教育から高等教育に至るまで、法律の定めるところにより、無償とする」と教育無償化を前面に押し出す。「憲法裁判所」の新設、道州制の導入ももくろんでいる。

 一口に「改憲勢力」といっても「何をどう変えるのか」については、バラバラだ。

 「どの条文をどのように変えるのか」を確定しなければ、国会審議にかけるための「改正案」は作れない。頭数がそろったとはいえ無所属まで含めての165議席。参院の3分の2(162議席)をわずか3議席上回るだけだ。憲法審査会の議論に注目し、成案を作らせないことは可能だ。

批判世論かわし改憲へ

 かつて安倍は、国会による改憲発議要件3分の2(憲法96条)を緩和することから改憲に手を付けようとした。改憲案を小出しにし、「お試し改憲」を繰り返すことで国民を改憲に慣れさせ、本丸である9条に手を付けることをめざしたものの、厳しい批判世論の前に失敗した。

 公明・維新の改憲案も、同様に9条改憲反対世論を何とかごまかそうとするものだ。

危険な公明「加憲」

 公明党の本丸は、9条第1項の戦争放棄や第2項の戦力不保持は堅持しつつも、従来の政府見解である「自衛隊は自衛のための最低限度の実力」として明記し緊急事態条項をも加える「加憲」だ。おおさか維新も自民党案と同じように、緊急事態の必要性を認め、集団的自衛権行使、核武装まで視野に入れている。受けのよい教育を突破口に「お試し改憲」に誘導する。

 だが、人権保障のための「加憲」など必要ない。

 環境権やプライバシー権は、幾度となく憲法第13条「幸福追求権」に包括されるものとして裁判の対象となってきた。たしかに、裁判所は憲法上の権利として認めてこなかった。公明党の「加憲」は、このような裁判の実態への批判をすくい取ることで改憲へと向かおうとする。

 本来は国会が、幸福追求権を拡充する方向で立法措置によってこれらの権利を保護すればすむ。それこそが憲法尊重擁護義務を負う国会議員の第一の仕事である。

 公明党は、与党として「国民の生命、自由及び幸福追求の権利」を守ると称して閣議決定で集団的自衛権行使を可能とし、その具体策として違憲の戦争法を国会に提出した。幸福追求権を「根拠」に違憲の戦争法を「制定」した以上、同様に環境権などの新しい権利を保護・確立する法律を制定できないわけがない。「加憲」など必要はない。

現憲法でこそ教育無償へ

 「教育費」をだしにしたおおさか維新の改憲案も、あまりに高い教育費への負担感に付け込んだものだ。これも、憲法26条の「教育権」を拡充するものとして、授業料無償化や給付型奨学金を法制化すれば全く可能だ。

 おおさか維新は、首相が変わるごとに無償になったり2分の1になったりしないように憲法に書きこむという。教育費無償化は、日本も批准した国際人権規約や子どもの権利条約でうたわれた国際的常識だ。ところが、日本政府は、憲法第98条「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」規定があるにもかかわらず、それら国際条約をないがしろにしてきたことが無償化の進まない最大の原因だ。憲法を誠実に守ることこそ必要だ。

 解釈改憲や違憲の戦争法に合意を与えたおおさか維新に憲法を語る資格はない。

 公明・維新の姑息(こそく)な手口は通用しない。

 改憲ノーの声を強めるとともに、辺野古新基地阻止、戦争法廃止の運動で戦争政策と対決し、教育・福祉・雇用・最低賃金など生存権を実現する運動で、憲法をより強固に根付かせることが重要だ。
ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS