2016年08月05日発行 1439号

【内戦状態の南スーダン/殺傷目的の攻撃も可能に/殺しあう前に自衛隊撤退を】

 政府はPKO(国連平和維持活動)部隊が展開する南スーダンに「邦人救出」の名目で自衛隊機を派遣した。戦闘が激化する同国に居座るための既成事実づくりだ。違憲の戦争法が「施行」され、自衛隊による殺し合いが現実味を増している。一刻も早く自衛隊を撤退させねばならない。

 政府は7月22日、PKO派遣先である東アフリカ・南スーダンの近隣、ジブチに派遣していた陸上自衛隊C130輸送機に撤収を命令した。

 この輸送機は政府が11日に「在外邦人等の輸送準備のため」として派遣を開始したもの。派遣時点で政府が把握していた南スーダンの首都ジュバに在留する日本人は70人。政府が派遣したC130は1機あたりの搭載人員は92人。3機で276人の輸送力だ。しかもC130がジブチに到着したのは7月14日。前日の13日にJICA(国際協力機構)が民間チャーター機で同機構関係者を含む93人をすでにケニアに退避させていた。結局C130は大使館員4人のみを輸送し、撤収することとなった。

 JICAは、7月7日の「南スーダン治安悪化」を受けて政府と緊密に連絡を取りつつ退避させたと発表している。政府も11日に国家安全保障会議を開き、チャーター機で退避させる方針を決めていた。C130が那覇空港を飛び立ったのが12日。この日、ジュバ市内の空港は再開されていた。政府がJICAの動きを知らなかったはずがない。

 中谷防衛大臣は12日の記者会見で「複数の発砲事案が発生」と事態を説明した。事態を軽く見せPKO5原則(注)が崩れていないと主張するためだ。だが、それなら政府の理屈では自衛隊機を出動させる必要はない。現にJICA職員は、足が速い民間航空機で国外脱出している。にもかかわらずあえてC130を3機も出した。自衛隊を外に出せるのなら、何でもありの安倍政権だ。

発砲事件ではなく武力衝突

 現地の実態は「発砲事件が発生」どころではない。内戦といっていい状態だ。

 南スーダンは2011年、スーダンから独立した。その後、大統領派と副大統領派の対立が激化。国軍を二分して武力紛争に突入した。15年8月和平合意が成立したが、実際には現在に至るまで戦闘は続き、最近になって一層激化。重火器まで持ち出されている。

 6月28日の武力衝突では270人以上が死亡しPKO参加の中国軍兵士1人も死亡。また、7月8日には、兵士150人が死亡する武力衝突が発生。C130派遣のきっかけとなった戦闘だ。

 7月10日から11日にかけても、PKO部隊宿営地周辺で戦闘が起き、8人が死亡。PKO部隊の中国軍兵士7人が死傷している。

 もはやPKO5原則を満たしていない。

 度重なる武力衝突でPKO部隊の任務は、「平和維持」から「文民保護」へと大きく変化した。

 今年2月、難民4万人を収容する南スーダン北部のPKO部隊宿営地で発生した暴力事件に対して南スーダン政府軍兵士が介入・襲撃し150人以上が死傷した。この事件について、国連本部は今月、調査報告をまとめた。


南スーダンにおける月ごとの武力衝突の発生件数。和平合意前後とも同様に頻発している。

PKO原則も満たさず

 報告は、PKO部隊の一部兵士が施設のフェンス警護を放棄したり、襲撃に対し即座に反撃しなかったことに関して「交戦規程の理解欠如だ」と指摘した。文民保護のためには、武力行使をためらってはならないとしている。

 南スーダンの紛争を受け、AU(アフリカ連合)は7月18日まで開催していた首脳会議で、国連が求めるアフリカ人部隊の増派を承認した。増派部隊は「平和強制」の任務を帯びるという。

 PKO活動が始まってから1980年代頃までは、停戦監視が主任務であり基本的には非武装で武器使用は隊員の自己防衛に限られていた。その後、90年代に入って住民虐殺が防げなかったことを理由に、文民保護にも使用可能と拡大。さらに「平和強制」では、武装勢力に対する殺傷的な武力行使も行う。PKO部隊による武力鎮圧になりかねない。

 現地のPKO部隊は2014年、作戦の重点を「国づくり支援」から「難民保護」に移した。このとき、自衛隊にも「火網の連携」(銃弾をまき散らして敵の侵攻を阻止するための部隊間連携)が求められたが、「違憲の武力行使にあたる」と応じなかった。

 だが、今は違う。戦争法によってPKOでの任務遂行のための武器使用が可能となった。自衛隊の交戦規定ができれば、正当防衛でなくとも殺傷が可能とされるのだ。

 自衛隊が殺し殺される国際紛争の当事者となる前に、南スーダンからただちに撤退させなければならない。

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(注)PKO参加5原則

 (1)紛争当事者の間で停戦合意が成立 (2)国連平和維持隊が活動する国や紛争当事者が日本の参加に同意 (3)国連平和維持隊が中立的立場を厳守 (4)以上の条件を満たさなければ撤収できる (5)武器使用は生命防護のため必要最小限とする。このうち1つでも満たさなければ派兵できない。
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