2016年08月05日発行 1439号

【安倍政権・メーカー一体の原発輸出 日印原子力協定阻止へ】

原発メーカーの経営危機

 歴代3社長が関与して利益水増しを行っていた東芝の不正会計問題。その背景に米原発メーカー、ウェスティングハウス(WH)社を買収した際の4900億円ののれん代があったことが明らかにされた。また、フランスに本部を置く世界最大の原子力産業複合企業アレバ社は、2014年度決算で約6700億円の損失を計上し、仏電力公社(EDF)の支援を仰ぐこととなった。EDFは、他に少数株主として参加する企業を探しており、三菱重工業も出資する予定と言われる。

 これらの事実が象徴的に示すように「フクシマ原発事故」後の世界的な脱原発の流れは、明らかに原発メーカーを経営危機に陥れている。アレバ社が経営危機に陥った直接の原因は、1基1兆円という高価なEPR(欧州加圧水型原子炉)のフィンランドでの第1号プロジェクトが難航したことにある。「世界の原発市場で純粋な民間企業は劣勢を強いられ、政府と一体化した中国やロシアの企業が一段と存在感を増していく」(15年1/16日経)という危機感は、原発ビジネスが一企業だけでは成り立たないことを示している。

「国家戦略」の原発輸出

 「アベノミクス第三の矢」とされる成長戦略の柱の一つは、グローバル資本の海外展開を政府が徹底して支援する「インフラシステム輸出戦略」だ。「2020年に30兆円のインフラ受注」を目標にODA(政府開発援助)などの公的資金を無制限に投入することを主な内容とする。

 安倍政権は5月、「日本企業の受注・参入を一層後押しするため、今後5年間の目標として、インフラ分野に対して約2000億ドルの資金等を供給」(「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」)を発表。JICA(国際協力機構)・JBIC(国際協力銀行)に加えNEXI(日本貿易保険)等を追加し支援体制を強化する。さらに、「原発や高速鉄道等、熾烈な競争を勝ち抜くべき個別案件について、官民一体で取り組み、政府全体として支援していく」(「インフラシステム輸出戦略」2016年版)と言う。

 原発などインフラ輸出の相手国は、主にアジアなどの新興国である。そこでは独力で資金調達できないため、これらの資金を使って日本の国家戦略として進められる。

 さらに、政府は原発メーカーの大再編も視野に入れる。「経産省高官は、『まず業界内の機運が高まり、そのあと必要なら産業革新機構の出資などによる支援も』」(6/16朝日)と経営難の原発企業を徹底的に支援する構えだ。

 各国の原発企業が攻勢をかけるのがインドである。インドのモディ首相と仏オランド首相は今年1月、世界最大規模のジャイタプール原発を2017年初めに事業着手することに合意。6月の米印首脳会談では、WH社が6基の原発建設を17年6月までに契約締結することが合意された。首脳会談で合意を発表したのは、原発輸出には日本の技術が不可欠なので、日本政府に「日印原子力協定」の早期締結を迫るためだ。「協定」については昨年12月の「原則合意」以降、公式の発表はない。だが、インドのメディアでは日本の前国会で承認案提出が予定されていたことが報じられており、予断を許さない。

 また、インドは、6月下旬のNSG(原子力供給国グループ)会合でパキスタンとともに加盟を申請した。48か国の全会一致が必要だが、7か国の反対で否決された。インドの承認に積極的に動いたのが、米、仏などとともに日本政府であった。NPT(核不拡散条約)に加盟していないインドに核貿易のお墨付きを与えれば、NPT体制は全く形骸化する。原発輸出国側は、それでも構わないというダブルスタンダードである。

インド民衆と連帯

 インドでは、現在も原発予定地を中心に粘り強い抗議が続けられている。WH社―東芝が予定していたミティビルディでは、住民の運動で原発建設が断念された。こうした運動に連帯して、インドの運動を牽引するCNDP(核軍縮平和連合)のクマール・スンダラム氏(16ZENKOに参加)とともに、焦点となる秋の国会に向け「日印原子力協定阻止」キャンペーンを展開する。広島、長崎を始め全国に「協定」阻止の世論をつくっていく決意である。

 (コアネット<戦略ODAと原発輸出に反対する市民アクション>・ 三ツ林安治)

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