2016年08月05日発行 1439号

【イラク戦争の違法性を指摘 英チルコット委員会が結論 日本政府の参戦検証を】

 英国政府が任命したイラク戦争の検証委員会(チルコット委員会)報告書が7月6日、公表された。260万語に及ぶ膨大な報告書は、2003年に開始されたイラク戦争に米国に次ぐ大兵力を送り込んだ英国の参戦が誤りだったことを全世界に明らかにした。

大量破壊兵器なく共謀あり

 報告はまず、イラク戦争の「大義」―イラク政府が保有するとされた大量破壊兵器について「当時のイラクは経済制裁が続くかぎり核兵器の開発は不可能だった」と断定。生物化学兵器の製造も「疑惑の域を出ない」とした。

 さらに、「ブレア元首相がブッシュ前米大統領に共同歩調を確約する文書を送っていた」という事実を認定。開戦前に両首脳の間で旧フセイン政権の打倒に向けた合意があったとした。

 チルコット委員会は、ブレアや当時の閣僚を出席させた公聴会を開き、政府の機密文書も提出させた。そうした証拠をもとに、報告は「英国政府は大量破壊兵器に関する不十分な情報を基にイラク戦争に踏み切った」とし、「我々は、イギリス政府が平和的な武装解除を検討する前に武力侵攻に参加する道を選んだとの結論に達した」「当時、武力行使は最終手段ではなかった」と結論付けた。

 イラク戦争の根拠とされた「大量破壊兵器」も「化学兵器」もなく、ブッシュとブレアが事前に共謀して戦争を開始した。それを政府任命の委員会が公式に認めた。イラク戦争は国際法上の根拠の全くない侵略戦争であることが世界に暴かれたのである。

 これは2010年、「オランダのイラク派兵は国際法に適合しない」と結論付けた同国のイラク独立調査委員会報告書に続く、世界の反戦運動の大きな成果である。

戦争犯罪人たちの処罰を

 違法な戦争を仕掛けた戦争犯罪人たちは処罰されなければならない。

 イラク戦争で肉親を亡くした女性たちは「ブレアは独裁のフセインを追い払おうとして、同じくらい悪いことをした。戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所で裁かれるべきだ」「ブレアは私の家族を奪った世界で最悪のテロリストだ。イラクでは、市民が戦闘に巻き込まれて殺害され、今も破壊が続いている」と批判の声を上げている。

 イラク戦争当時の副首相だったプレスコットは、英紙に投稿して「参戦は違法だった」との考えを示し、死亡した英兵179人の遺族に謝罪した上で「責任の一端は自らにある」と表明している。

 ブレアは当時の労働党党首だ。コービン現党首は、報告書発表の当日、イラク戦争に対する謝罪を行った。コービンは、イラク戦争に反対し続けた労働党議員で英国最大の反戦団体・ストップ戦争連合の議長でもあった。また、英国下院では、超党派でブレア元首相に対するけん責動議が提出されている。

 報告には弱点もある。英国がイラク戦争に踏み切った動機を不問にしたことだ。動機はイラクの石油資源の獲得にあった。反戦団体が情報の自由法によって入手した公文書には「イラク戦争の前に政府高官が何回も(国際エネルギー企業の)BPやシェルと秘密裏に会い続けた。イラクはまさに大きな石油の有望鉱脈である。BPはどうしてもイラクに入って行きたがっている」と明記されている。

参戦妥当と居直る日本政府

 チルコット報告に対し、日本政府は、イラク戦争を支持した小泉首相(当時)の判断は「今日でも妥当性を失うものではない」(世耕官房副長官)と居直っている。

 安倍首相はイラク戦争当時、第1次小泉内閣の内閣副官房長官として「日本にとって石油の確保は死活問題であり大義である。それゆえイラク戦争を支持することは正しい選択である」と言い放った。自民党幹事長に就任した2003年10月には「(イラク復興のために)できるだけ早い段階で自衛隊を出すべきだ」と発言している。

 自衛隊を占領軍として駐留させたサマワ近辺の石油利権は、現在日本の石油企業が獲得している。安倍は、小泉と一体でイラク戦争をけしかけて自衛隊を派兵し、石油利権にたかった張本人なのだ。

 チルコット委員会に学び、日本でもイラク戦争と自衛隊参戦を検証する委員会を政府に設立させることが必要だ。小泉、安倍らの戦争犯罪を明らかにしなければならない。それは、イラクや南スーダンなどで石油資源獲得のために軍事介入を狙う安倍政権との闘いでもある。

 2016ZENKOには、その安倍が支えるアバディ政権の人権抑圧や緊縮攻撃、イスラム主義者の対市民テロ攻撃と闘うイラク労働者共産党のサミール・アディルさんが参加する。イラク民衆の闘いに学び連帯しよう。

(イラク平和テレビ局in Japan代表・森文洋)



 
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