2016年08月05日発行 1439号

【ZENKO会場背景画/『お腹に命を持つ人』/一人の命はまるで地球―山内若菜】

 2016ZENKOin大阪メイン集会の会場背景画は、山内若菜さん制作の『お腹に命を持つ人』。3〜4月、埼玉県東松山市の原爆の図丸木美術館で『牧場−山内若菜展』を成功させた若菜さんは、同展参観者との会話の中から作品の構想をふくらませていった。絵に託したテーマをつづってもらった。

 身近な、たたかう妊婦さんを描いています。テーマは「一人の命はまるで地球、輝ける星」です。

 母体は神秘な宇宙。たくさんの命がつまっている、そこから放たれるように。一人は地球くらい重く、それくらいの尊さなのではないか。そんな思いから、描きました。

 妊娠は、喜びと悲しみ、両面があると言います。だから、微笑(ほほえ)むような、苦しむような微妙な顔にしたかった。

 本来なら喜びだけのはずの、生み出すでっぱり。でも、今の日本とくに福島やその近辺での出産には不安が。沖縄の二十歳の女性もお母さんになりたかったかもしれない。非正規でお金がなくて産めない、保育園の問題など、誰もがそうできない悲しさもあります。

 ぜひ、この絵を背景に、みんなが輝いてほしいです。

  *   *   *

 丸木美術館での個展が4月9日に無事終了しました。遠方までお越しいただいた方、本当にありがとうございました。

 私の会期中は、この10年間で一番多い来客数だったとのこと。400人ほどのみなさんが記帳してくださいました。感謝を込めて、少しご紹介します。

 ある日曜日に訪れてくださった若い女性作家の方と、こんなやりとりをしました。

 その作家さんは「社会的なテーマで描くと冷ややかな目で見られ、やめてしまった」と話します。「でも、実は表現したかった。今も迷いながら、それを避けて制作しているのです」と。

 私は「私も社会的なものは公民館や運動の場で、本当に発表したい絵とは分けてきた」と説明し始めました。「迷いはなかったですか?」と尋ねると、彼女は「自分は美大の院卒で、主題について迷っている」と。私は、自分がどうだったか、振り返りながら話を続けました。

 ギャラリーや絵の仲間に反対され、絵の世界を汚すなと怒られたり風当たりが強かったこと。デモ用の絵ではペンネームを使ったりしながら、地元で少ない頭数だけでNO NUKES展をやったこと。こんなもんじゃない現実を見ようと「月桃の花」歌舞団の方たちと福島へ行き、運動をしていたみなさんを知り、一緒に行こうと言ってもらったこと。

 そして、美術の世界と運動の世界は本来同じなのではないかと考えたこと。実はそれが私が生きていると思える瞬間だったこと。

 牧場主の意志の美しさに美を見たり、そこにいる声なき動物やそれを生かし続ける行為に美を見たり。沖縄の人とも関わって。それは自由だから表現したいと思ったら恐れることはない。そして表現したものはテーマになるのではないか。福島の人は思いがけず喜んでくれたこと。…

 そんな話をするうちに、二人で話が希望に向かっていくというか、「わかる。わかりますよ」とお互いフグっと涙を流し、若い彼女の迷う思いと私の模索の日々の思いが重なり合いました。

 他人事であること、無関心さ。これを一番、本当に困っている方は恐れている。私は「悩んだけど、やっぱり描いてよかった。その方たちと混じりあえた。このテーマを続けたいって思えた」と。若い彼女が迷っているからこそ、その迷いに対し一緒にわかりあえるようでした。

 選挙もそうですが、身近な人にいかに伝えるか。違いを恐れず、変えたいと思うために。

 とくに、絵に関心のある人、表現したい人がこの牧場の絵を見ると、稚拙なのに、思いにより自分の中の表現の魂、迷いの光を見出す力に時になることを感じました。

 これからも「牧場」を、見つけた感動、残したい人、その美を、描き続けたいと思います。



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