2016年08月12日発行 1440号

【南シナ海 中国に裁定下る/戦争国家に利用する安倍/武力ではなく平和的解決を】

 「中国は国際法を守れ」と日米両政府が仕掛けた対中緊張激化の策動は、アジアで開かれた一連の国際会議の合意にはならなかった。だが、好戦性をあらわにする安倍政権は、中国の拡張主義を口実に軍事緊張を強め、沖縄新基地建設強行―戦争路線に突き進んでいる。格差・貧困拡大に対する民衆の高まる不満を、軍事緊張を煽ることで抑え込む危険な動きを許してはならない。

日米中軍拡の舞台

 フィリピンが「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」に基づいて訴えた南シナ海の問題に、ハーグ仲裁裁判所は7月12日、中国が領有と権益の根拠とする「9段線の歴史的権利に法的根拠はない」と裁定を下した。領有権問題は仲裁裁判所の管轄外と主張する中国は、裁判に加わらず、「裁定はただの紙くず」と居直っている。確かに領有権問題は当事国合意の下で国際司法裁判所が判断するとされる。だが、「当事国間の交渉で解決」と原則を口にしながら、一方的な人工島の建設強行や他国の権利侵害は許されない。中国の軍事拡張主義は厳しく批判されねばならない。

 南シナ海での中国との紛争はフィリピンだけでなく、漁業権や資源開発などの経済権益をめぐりベトナム、マレーシア、ブルネイなどとの間で起きている。ところが今回、「国際法を守れ」と先頭で声高に叫んでいるのは、日米両政府だ。その狙いは中国の軍事的封じ込めにある。

 今年4月、米比の軍事演習「バリカタン」が南シナ海で行われた。オーストラリア、韓国とともに日本もオブザーバー参加。自衛隊は昨年もP3C対潜哨戒機による中国潜水艦探査能力を試している。6月には日米インドが沖縄本島の東方沖で軍事演習「マラバール2016」を行った。対潜水艦戦の訓練だ。中国の潜水艦が日本と台湾を結ぶラインを越えた場合、海底に張り巡らされた固定センサーが探知するという。米太平洋軍のハリー・ハリス司令官は「南シナ海に、地上発射のロケット弾や榴弾砲を配備したい」と語っている。

 南シナ海は、中国の海洋進出と、日米を中心とする軍拡の舞台にされようとしている。


対中国包囲網失敗

 裁定を利用し、中国との軍事緊張を煽る日米両政府の狙いどおりにはならなかった。

 裁定後最初の首脳会談となったアジア欧州会合(ASEM)。7月15、16日にモンゴルで開催され、欧州とアジアから53か国・機関の首脳が参加した。安倍は会議の傍らで中国の李克強首相に裁定受け入れを迫るなど挑発を行ったが、会議の場で中国批判の発言をする参加国はなかった。

 7月24日から東南アジア諸国連合(ASEAN)10か国外相会談がラオスで開催された。共同声明は「南シナ海の非軍事化と、埋め立てを含むすべての行動の自制が重要」と強調し、仲裁裁定には全く言及しなかった。引き続き開かれたアジア太平洋地域の安全保障を議論するASEAN地域フォーラム(ARF)には、日米など27か国・機関が参加。日米が中国に裁定受け入れを迫ったが、平行線。議長声明は「南シナ海の平和・安保・繁栄・安全・航行と上空飛行の自由を維持して発展させることが重要」と、裁定には触れていない。

 ASEANと中国との間には、02年に調印した「南シナ海行動宣言(DOC)」がある。領有権争いの平和的解決や緊張を高める行動の自制をうたっている。今回ASEANと中国の間では、法的拘束力のある「行動規範(COC)」策定への合意が大きく前進。懸案だった策定時期について、中国も17年上半期を目途と初めて表明した。

 さらに、ASEAN外相会議では、武力行使の放棄を明記した東南アジア友好協力条約(TAC)に新たに4か国が加入し、35か国とEUとなった。日本(04年)、米国(09年)も加入する友好条約。これこそ「国際条約を守れ」と叫ぶべきものだ。

 一連の国際会議で中国非難の合意文が出なかったのは、「チャイナマネーが『国際秩序』を買う」(7/25ニューズ・ウィーク)という経済的要素ばかりではない。根本に、ASEAN、中国を含む東アジア各国間の問題を平和的・外交的に解決しようとする確かな潮流があるからだ。

 そうした流れに逆行する日米政府のご都合主義があまりにも際立った。ケリー米国務長官は「法の支配を擁護するのが米国の立場だ」と中国追及の先頭に立ったが、当の米国は国連海洋法条約を批准していない。条約に縛られるのを嫌ったためだ。

 日本も沖ノ鳥島で二重基準を見せている。今年4月、海上保安庁は沖ノ鳥島近郊で台湾漁船が違法操業したと拿捕(だほ)した。台湾政府は「島ではなく岩礁」と抗議。今回の仲裁裁定「人が住めないものは岩」との判断に従えば、台湾政府に軍配が上がる。だが岸田外相は「裁判に拘束されるのは当事国だ」。自国は別≠ニは何という言い草か。

基地新設を強行

 対中国包囲網はとん挫した。軍事緊張ではなく対話と協調の流れの中で、安倍政権の好戦性はますます突出している。沖縄の新基地建設は、なりふりかまわぬ異常さだ。

 東村高江。米軍北部訓練基地7800ヘクタールのうち4000ヘクタール(51%)の返還条件とされるオスプレイの離発着場(ヘリパッド)6基の新設。安倍は「沖縄の負担軽減策だ」と胸を張る。米海兵隊の報告書「戦略展望2025」には「使用できない北部訓練場の51%を返還する一方で、利用可能な訓練場所を新たに設け効率性が増す」とある(7/26赤旗)。米軍にとって役立たずの土地を返し、訓練効率を高める施設をつくる身勝手さだ。民家から500mしか離れていないところに新設。轟音と熱波をまき散らすオスプレイが夜まで飛び交う。これを「負担軽減」とうそぶき、抗議する住民らを機動隊で蹴散らす。

 辺野古新基地建設は陸上部の工事を強行する構えであり、海上埋立工事も再開にむけ沖縄県知事を訴えた。

 安倍政権は軍事挑発を行いながら戦争法を本格始動し、改憲プロセスを加速することを狙う。沖縄を軍拡の犠牲にしてはならない。
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