2016年09月30日発行 1446号

【IUCN会議に新しい風/自然保護運動の変革促す市民の力/環境破壊の元凶はミリタリズム】

 9月1〜10日、米ハワイ州ホノルル市で開かれたIUCN(国際自然保護連合)第6回世界自然保護会議。沖縄県副知事と名護市長が「生物多様性豊かな海を壊す基地建設の中止を」と世界に訴えた会場の外では、沖縄ジュゴン保護運動とハワイ市民・太平洋先住民の運動の新たな出会いが生まれていた。

“米軍は太平洋を壊す”

 3日午前9時。IUCN会場のコンベンションセンターに程近いオールド・スタジアム公園に人びとが集まり始めた。「太平洋での米軍の犯罪に糾弾の声を上げよう」という集会だ。チラシにはこうある。「IUCN世界会議のテーマは『岐路に立つ地球』。持続可能性、気候変動、生物多様性などが議論される。しかし、太平洋の軍拡の恐怖について何も触れないのは、納得できない」

 人数は20人ほどになり、デモ出発。先頭に「米軍は太平洋を壊し、世界を壊す」の横断幕が掲げられた。コンベンションセンターまでの道のりを「基地ノー、戦争ノー」「占領は自然保護ではない」「世界の民衆は叫ぶ/米軍は出て行け」とシュプレヒコールしながら進む。

 軍事活動がもたらす環境汚染はハワイでも深刻だ。パールハーバー近くの米海軍ジェット燃料タンクから大量の燃料が漏れ出している。リムパック(環太平洋合同演習)では、オアフ島の砂浜を軍用車が荒らし、ハワイ島の火山のふもとに実弾が降り注ぐ。主要8島で最小のカホオラウェ島は演習場として使われ、今も不発弾が多数残る。オバマ大統領は8月末、ハワイ北西に位置する海洋保護区を日本の国土面積の4倍にまで拡大したが、保護区内で米軍の活動が規制されることはない。

 デモ隊はコンベンションセンターに到着後もスタンディングを続ける。「米軍は化石燃料の最大の消費者。世界に1千か所以上の基地を持ち、環境の大惨事を引き起こしている」と批判し、IUCNには「これは言わば『部屋の中の象(=見て見ぬふりしたい重大事)』。地球を救いたいなら、ハワイ・太平洋・世界の軍事化の問題を取り上げるべきだ」と求めた。

SDCC参加団の訴え

 これに応えて会場内から出てきたのが、SDCC(ジュゴン保護キャンペーンセンター)参加団の人たち。地域・街頭で集めた「ジュゴン・キルト」や保育園児の作った「ジュゴン守りたい」バナーを連ね、デモ参加者とエールを交わす。「ジュゴンの海に基地はいらない」の声と「ハワイに爆弾を落とすな」「米軍は太平洋を汚染するな」の声が重なり合った。

 SDCC参加団とデモの人びとをつないだのは、沖縄連帯の取り組みを重ねてきた草の根のネットワーク、HOA(ハワイ沖縄アライアンス)だ。ハワイ語で“hoa”は「友達」の意。先住民の運動を互いに支え合い、軍事化・植民地化に代わる平和と公正のオルタナティブ(代案)実現をめざしている。

 HOAは1日、ハワイ大学ハワイ研究センターでフォーラム「みるく世(ゆ)がやゆら(=平和な世の中でしょうか)」を開いた。スピーカーはSDCC国際担当の吉川秀樹さん、ヘリ基地反対協議会共同代表の安次富(あしとみ)浩さん、名護市議の東恩納琢磨さん、SDCC代表の海勢頭(うみせど)豊さん。ハリケーンの接近が心配される中、70人以上が沖縄からの訴えに耳を傾けた。

 ハワイ大学教授マリ・マツダさんがフォーラムの趣旨を紹介する。「最大の絶滅危惧種、人類をいかに自滅から救うか。答えは、辺野古のサンゴ礁を、聖なるマウナ(山)を守るため逮捕も辞さない沖縄のオバア、ハワイのおばあさんの闘いに学ぶ中にある。戦争と強欲は安全を保障しない。大地と未来の世代を大切にする−祖先のこの知恵が今何より必要とされている」

 吉川さんが辺野古基地問題の経緯を詳しく説明。安次富さんは沖縄県民の闘いを報じる地元2紙の英語版を示し、「沖縄の民主主義は民衆のムーブメントがつくり上げてきている。沖縄の未来は私たちウチナーンチュがつくる」と力を込める。東恩納さんは名護市議会が昨年、米バークレー市など国内外の地方議会の支援に感謝する決議を採択したことを報告し、「外交・防衛は国の専権事項というが、基地は私たちの生活にかかわる。ホノルル市議会でも決議を上げる動きがあると聞いている」と期待を表明した。

 海勢頭さんが「ジュゴンは沖縄で平和の神として祀(まつ)られている。軍隊から自然を守りましょう」と呼びかけ、『ザン(ジュゴン)の海』を歌うと、大きな手拍子が。最後はカチャーシーの乱舞に包まれた。参加者の一人はその光景を動画サイトに投稿し、「ダンスと笑い、カチャーシー、即興と創造の力が本当の安全保障」とコメントしている。

世界会議にも反映

 会場外での交流は、IUCN世界会議のセッションにも反映された。4日、SDCCなどが主催したワークショップでは、稲嶺進・名護市長が「抗議する人たちの排除は権力による暴挙。人権も民主主義も踏みにじり、地方自治を否定するものだ」とIUCNの会合としては異例の発言。ワークショップに参加していたHOAのピート・ドクターさんは「環境保全の阻害要因から、沖縄に対する歴史的な不正の根底にある植民地化の問題を除外してはならない。IUCNが勧告実現のため何ができるかは、この根本的問題に取り組めるかどうかにかかっている」と指摘した。

 環境破壊の元凶であるミリタリズムに立ち向かう自然保護運動へ。SDCCとハワイ市民・太平洋先住民との交流はIUCN変革の方向性を示唆するものとなった。



ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS