2016年10月07日発行 1447号

【生存権を否定する社会保障解体(2) 必要な医療を奪う安倍政権 病院から追い出し 患者負担を強要】

 安倍政権は昨年末、社会保障費削減を狙い医療と介護を主なターゲットに社会保障制度改悪の「改革工程表」を決定した。今回は、医療への攻撃について患者切り捨てと負担増を中心に見ていく。

続々と負担増

 公的医療保険の医療サービスや薬の公定価格である診療報酬が4月に改定された。

 この改定は2016年度予算編成時に「社会保障分野における重要課題」と位置付けられたもので、実質的に1・03%が引き下げられた。前回の改定でも実質1・26%の引き下げが行われ、マイナス改定が連続することとなった。2002年度から2008年度まで2年ごと4回連続した引き下げは医療崩壊≠引き起こした。今回、事態は一層深刻化する。

 患者負担などはどう変わったのか。例をあげよう。

 (1)紹介状なしでは大病院での受診に初診時5千円以上、再診時2500円以上を別途徴収。近くの大病院でも「軽症」とされれば排除される。
 (2)看護師配置が入院患者7人に1人などより手厚い急性期病床(一般病床は15人に1人)の認定基準を、重症患者の占める割合が15%以上から25%以上へと厳しくした。そのため、「軽症」患者は限りなく早く追い出される。

 (3)一般病床の食費を1食260円から360円へ値上げ。1食100円、月3000円値上げが年金暮らしの高齢者にどれほど重い負担か。さらに2018年には460円への値上げも決まっている。

 こうして大病院での受診を制限し、病院から追い出すため、その受け皿≠ニして「かかりつけ機能」強化がうたわれている。休日の往診料、かかりつけ薬剤師の報酬を手厚くするなどだが、貧弱な地域医療体制の下では何のたしにもならない。

 今回の改定で、混合診療の規制を緩める患者申し出療養が始まった。先進医療や未承認治療薬など高額な費用がかかるため、この制度は金持ちだけに有利となる。大病院に行き、いい医療を受けようとすれば高額の費用がかかる。医療保険の柱の一つ、だれもが医療を受けられるフリーアクセスは崩れていく。

改悪で医療難民が

 安倍政権の攻撃は以上にとどまらない。今後にもさらなる医療費削減と負担増を次々と行う計画を立てている。

 まず、かかりつけ医以外の受診に定額負担を上乗せする。1回100円から数百円とされるが、その額によっては窓口負担が4割になることもある。健康保険法の付則に、将来にわたって患者負担3割を維持する旨の規定があり、これに反するものだ。

 後期高齢者の窓口負担を1割から2割に段階的に引き上げる。さらに、低所得者などへの減免措置を来年度から段階的に廃止する。916万人が直撃され、保険料が10倍になる人さえ出てくる。また、前期高齢者の高額療養費制度の限度額を引き上げる。高齢になるほど医療費負担が増え、こうした大幅な負担増は医療難民を生み出すだろう。

 一般病床入院時に1日320円の居住費(光熱水費)を導入する。入院は治療のためであり、住むためではない。食費が徐々に引き上げられてきたように、居住費も引き上げられかねない。

 市販品類似薬(湿布、うがい薬、胃腸薬、鎮痛剤など)を保険給付から外す。これは、必要な医療は公的保険でまかなう国民皆保険の趣旨に反する。後発薬の割合を引き上げるため、新薬を使う場合の差額を患者負担にする。

 これらは、患者の負担を増やし、受診させないことを狙うものだ。加えて、医療制度改悪によって医療費削減を行うものがある。国民健康保険の都道府県移管が2018年度から始まるが、「地域医療構想」策定の名で病床の計画的削減(病院からの追い出し)などが狙われている。

医療費削減と市場化狙う

 国民健康保険は、無職者や非正規労働者の加入割合が多く、保険料が高いため、保険料滞納世帯が多数つくり出されている。2015年6月で336万4千世帯あり、国民健康保険加入世帯の16・7%を占める。これ以上の患者負担は受診そのものをさせないことにつながり、重症化を引き起こす。結果としてむしろ医療費を増やしかねない。

 安倍政権は、医療費削減のために療養病床廃止など患者を放り出し、負担増で受診を抑え込む政策を強行している。病気も自助で対応せよ、できなければ家族や地域の共助を求めよ、というのだ。その一方、TPP(環太平洋経済連携協定)で国民皆保険を解体し、医療を完全市場化しようとしている。医療破壊攻撃を許さず、国民皆保険を守れ≠フ声を大きくしよう。

■医療で負担増が検討される項目■

◇高額療養費制度の見直し(70歳以上の負担上限額の引き上げ)

◇かかりつけ医以外を受診した場合、新たな自己負担の導入

◇入院時の光熱水費の患者負担を拡大

◇金融資産を多く持つ患者の負担の引き上げ

◇市販される薬は、病院で処方されても自己負担を引き上げ

朝日新聞2016年7月15日付より作成

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