2016年10月21日発行 1449号

【未来への責任(210)安倍靖国参拝は戦争への道】

 9月5日、12日の2日間にわたり、安倍靖国参拝違憲訴訟(東京)の原告本人尋問が行われた。関千枝子代表を含め日本人原告10名(1人はドイツ在住)、中国と香港から各1人、韓国から2人の計14名が証言台に立った。訴訟は633人が原告となって、2013年12月26日の安倍首相の靖国神社参拝が憲法違反であると訴えたものである。証言はいずれも侵略戦争・植民地支配の悲惨な実相と現在の状況を踏まえたものであり、安倍の靖国参拝が再び戦争への道を突き進むものであることを明らかにした。

 日本政府は法廷での本人尋問を妨害し、予定された中国人原告・胡鼎陽さんのビザ発給を拒否し入国させなかった。代わって急きょ来日した原告・王選さんは、旧日本軍731細菌戦部隊を訴えた裁判の原告団長でもある。1940年から42年にかけてペスト菌を保有するノミを空中から散布する細菌戦で、原告の父の故郷である崇山村では村民の3分の1にあたる400人がペスト菌で死亡した。原告の親族8名も死に追いやられた。そして、日本軍は占領後、証拠隠しのため村ごと焼き払った。日本政府を被告とした731部隊訴訟は、敗訴(2007年)したものの、東京地裁・東京高裁とも日本軍が浙江省や湖南省でペスト菌やコレラ菌の細菌戦を行い多数の死傷者を出したことは認定した。それでも日本政府は、細菌戦の事実を否認し続けている。王選さんは、怒りを込めて証言した。

 香港から来た許朗陽さんも戦争加害を認めない日本政府に怒りをあらわにした。

 日本軍は、3年8か月にわたって香港を支配した。抵抗する市民は拷問を受け、殺された。協力を拒否した有名な詩人・戴望舒さんも収容され、厳しい拷問を受けて心身ともボロボロになった。香港の日本軍施設内には南海神社が立てられた。「慰安婦」被害者に真摯な謝罪をせず、香港軍票支払いなどの要求にも全く応じていない。

 韓国から来た太平洋戦争被害者補償推進協議会の李熙子(イヒジャ)さんは、植民地支配下で父らを奪われたことの苦しみ、遺族には通知せず靖国神社だけには通知して合祀した理不尽さ、無念さを訴えた。韓国・民族問題研究所の金鎮英(キムジニョン)さんは、植民地支配の犠牲者とのかかわりから「靖国神社は廃止されるべきだ」と強く訴えた。

 ドイツ在住の山内斉さんは、ドイツで外国人排斥思想を持つ者に襲われ、救急車で搬送された経験から、首相の靖国参拝は排外主義と国家主義を呼び起こす以外の何ものでもないと訴えた。さらに、キリスト教会の牧師である星出卓也さんは、かつてキリスト教が靖国や天皇参拝に屈したことの反省から、首相の靖国参拝は、参拝を社会的習俗として一般に定着させ、日の丸や君が代と同様拒否できない社会をつくりだすことになると、その危険性を訴えた。

 どれも心打つ訴えであった。安倍・国・靖国神社の代理人は、安倍参拝は「私的」参拝であり、原告に何の被害もないのではという反対尋問をしたが、原告はそれを見事にはね返した。大きな意味をもつ原告本人尋問であった。次回口頭弁論は、12月2日。

(在韓軍人軍属裁判を支援する会 御園生光治)

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