2016年10月28日発行 1450号

【南スーダンで何が? なぜ自衛隊が銃を構えるの? 憲法破壊、侵略軍に脱皮のため】

 安倍政権は11月、南スーダン共和国(以下、南スーダン)に派遣している陸上自衛隊に「新たな任務」を命じるつもりだ。「駆けつけ警護」と「共同防衛」。これは実質的に「いつでも戦闘開始」の命令に等しい。なぜそんな新任務が必要なのか。一体、南スーダンはどうなっているのか。あらためて考えてみよう。

Q 南スーダンで何が起きているのですか。

 稲田朋美防衛相が10月8日現地を視察しました。「(治安が)落ち着いていることを見ることができ、関係者からもそう聞いた」と報告。安全な場所だと印象付けたいようです。実態は、防弾仕様の四輪駆動車で首都ジュバ市内を駆け抜け、国連施設内での聞き取りに終始したのでした。滞在時間わずか7時間。安全のため、報道関係者も4人に限定、代表取材です。

 こんな「視察」になったのは、ほんの3か月前に自衛隊宿営地隣のビルを含む周辺で2日間大規模な銃撃戦があったからです。その戦闘で市民数百人が殺されました。視察の日も、郊外では民間人のトラックが攻撃を受け、死者21人が出ています。防衛相の報告は、実態とは正反対のものです。

 南スーダンは、20年以上もの内戦を経て2012年7月スーダンから独立。その後も政権が安定した時期はほとんどありません。国境紛争や石油利権争いが絶えず、今はキール大統領派と解任されたマシャール前第1副大統領派の間で内戦状態になっています。住民の被害は甚大です。国連機関の調査では、9月末で数万人が犠牲になり、国民の半数に近い480万人が深刻な食糧不足の状態です。

 一方で政権幹部が国の財産を略奪し、私腹を肥やすなど腐敗・汚職が蔓延。公務員給与の遅延もあり、市場から略奪した兵士は「代金は大統領からもらえ」と捨て台詞(ぜりふ)を吐いているそうです。いわば、戦車や機関銃まで使った暴力団の縄張り争いで住民が犠牲になっているのが、現在の南スーダンの状況です。


Q 国連PKOはなぜいるのですか。

 南スーダンが独立する前日、国連安保理は決議1996をあげ、国際連合南スーダン共和国派遣団 (UNMISS)を結成しました。「国際平和と安全に対する脅威になっている南スーダンに、持続可能な開発の基礎をつくるための平和構築の取り組みを支援する」ためとされています。今年8月現在、62か国が警察や軍隊を送り、総勢1万2千人以上になっています。

 ですが大統領派と副大統領派が銃撃戦をしているところで、「平和構築の支援」は意味を持ちません。そこで「民間人保護を優先」としたものの(14年5月)、有名無実です。

 市民からは「戦闘が起きても何もしない。国連は出ていってほしい」(10/10朝日)との声が出ています。7月の銃撃戦の時、国連施設に逃げ込もうとした市民を追い返したり、レイプ現場を見て見ぬふり、といったのがPKO部隊の実態だからです。住民を犠牲にするのは、政府軍・反政府軍もPKOも全く同じです。「住民保護」は建前だけです。

 ではなんのために居るのでしょう。派遣国には、それぞれの狙いがあります。最大の約2300人を送っているインドはPKO大国、米ソ冷戦の時代から第3極の役割を果たそうとしてきました。アフリカで影響力を拡大したい中国は千人を超える軍隊を送っています。1800人以上の軍隊を送っているルワンダやエチオピア(1267人)、ケニア(1027人)などの近隣諸国は自国の「安定」にとって、直接影響があります。

 この戦闘は石油利権が絡んだ内戦です。グローバル資本にとってどの勢力が主導権をとるのか、それを見極め、次につなげるためにも軍隊を駐留させておくのです。 

Q 自衛隊の「新たな任務」はなぜ必要なのですか。

 日本のグローバル資本は、アフリカでの権益確保には軍隊の駐留が必要不可欠と考えています。

 「PKO5原則」では、紛争当事者が停戦に合意したところにしか自衛隊は派遣できません。南スーダンでも戦闘のないところで道路など施設整備をするのが与えられた任務でした。ところが、今は国連施設の外では活動できません。停戦が崩壊しているからです。こんな場合はすぐに撤退するのが、5原則のルールです。

 安倍政権は戦地に自衛隊を派遣するために、憲法違反の戦争法を強行成立させました。戦争法によるPKOの「新たな任務」とは、危険なところに踏みとどまることです。他国の兵士やNGO職員を救出するために出動する「駆けつけ警護」、他国軍と共同して宿営地を守る「共同防護」が想定されています。要は、「いつでも戦闘できる態勢をとれ、歯向かう敵を殺せ」です。当然殺されることもあります。

Q 南スーダンの人びとのためになるのですか。

 内戦状態で犠牲になっている市民を救うには、紛争当事者間の和平合意と武装解除しか道はありません。「自国の利益」のためだけに存在する寄せ集めPKO部隊が、ある時は政府軍と、ある時は反政府軍と交戦することは、和平への道をより複雑にするだけです。

 グローバル資本にとって資源略奪には、独裁者と手を結ぶのが一番てっとり早い。南スーダン民衆を搾取する新自由主義を押しつけるためでもあるのです。自衛隊が紛争地にとどまり、戦闘を行うのは、その国の住民の利益ではなく、日本の「国益」=グローバル資本の権益のためなのです。

 紛争地に対して日本が貢献できるのは、戦争放棄を宣言した平和憲法のもつ力です。それを地に落としたのが安倍政権、戦争法です。「新任務」は日本への信頼をさらに失わせ、敵視させるものです。自衛隊が殺し殺され、侵略者として警戒される国にしてはなりません。

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