2016年11月18日発行 1453号

【低線量被ばくと健康被害を考える集い 新たな安全神話を批判 包括的健康調査・診断を 寄稿 医療問題研究会 高松勇】

多発は揺るがない事実

 まず、津田敏秀氏(岡山大学大学院教授)から「甲状腺がん検出状況の報告と100_Sv閾値(しきいち)の問題」と題して以下の報告が行われた。

 福島では原発事故以降に「原発事故により、福島県内では、被ばくによるがんが発生しない、発生したとしても分からない」という新たな安全神話が語られている。

 しかし、この神話の第一条件「100_Sv以下では被ばくによるがんが生じないし、生じたとしても認識できない」という話は、低線量被ばくで発がんが示された数多くの科学的事実で反駁(ばく)されている。

 また、神話の第二の条件「原発事故処理労働者以外の福島県民には100_Sv以上の被ばくはない」という話も科学的根拠は薄い。厚労省の圧力でデータが約10分の1に変えられたWHO(世界保健機関)報告書(2012年5月)でさえ、福島県浪江町の乳児の甲状腺被ばく線量は100〜200_Sv、事故直後の母乳を飲む乳児の甲状腺被ばく量調査では数_Svから1200_Svまであった。

 福島県における甲状腺がんに関しては、桁違いの多発であり、もはや多発は揺るがない事実だ。

 本年9月の第24回県民健康調査「甲状腺検査」では、この5年半の間にすでに甲状腺がん症例174名、うち手術例135名が報告されている。

 まず、県外との比較として、「福島県内の被ばくされた地域の有病割合(発見率)」と「福島県外の原発事故被ばくの影響の無い全国標準の発生率(国立がんセンター公表データ)」の比較が重要だ。

 第1巡目の甲状腺検査(先行検査、11年度から13年度に実施)で、全国標準と比べて20倍から50倍の異常多発が確認されている。

 第2巡目の甲状腺がん検査(本格検査、14年度と15年度に実施)では、甲状腺がん59名、手術例34名が報告されている。この人たちは、9割以上の人が第1巡目では甲状腺の状態から2次検査を不要とされた人だが、先行検査と同様に20倍から50倍の異常な多発が確認された。

 こうした甲状腺がんの多発は「被ばくによる過剰発生」であると考えられる。

 福島では残念ながら、科学的根拠に基づいていない政策が実施されており、科学的根拠を自分の目で確認することが重要だ。

汚染都県で周産期死亡増

 次に、森国悦氏(医療問題研究会)から「福島を含む汚染都県における周産期死亡の増加」の内容が報告された。

 01年から順調に減少していた周産期死亡(妊娠22週から生後1週までの死亡)率が、放射線被ばくが強い福島とその近隣5県(岩手・宮城・福島・茨城・栃木・群馬)で11年3月の事故から10か月後より、急に15・6%(人数としては約3年間で165人)も増加した。被ばくが中間的な強さの千葉・東京・埼玉でも6・8%(153人)増加。これらの地域を除く全国では増加していなかった。これは、チェルノブイリ後に、ドイツなどで観察された結果と同様だ。

 津波の人的被害が著しかった岩手・宮城と、比較的少なかった他の4県を分けて検討してみると、震災直後の増加は岩手・宮城で著しく、他の4県では増加が見られなかった。一過性の増加は津波・地震の影響によるが、10か月後からの増加は津波・地震の直接的影響ではない可能性が高いことを示している。

 統計に表れた事実の意義は、第一に、甲状腺がんだけでない障害もすでに生じていることを明白にしたこと、第二に、被ばくによる障害が福島県以外の東北からさらに東京・埼玉・千葉にも広がっていることを示したことである。今後、包括的かつ広範囲な健康調査が必要なことを教えている。

 *   *   *   *

 参加者との質疑・討論を経て、集会のまとめが行われた。

 甲状腺がんの多発は、もはや揺るがない事実である。健康障害は甲状腺がん以外にも、また、福島県以外の東北地方、関東地方にも広がっている。今後、包括的かつ広範囲な健康調査、健康診断が必要なことが確認された。





ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS