2017年01月06日・13日発行 1460号

【戦争と貧困、排外主義許さぬ闘いを/地域から全分野で安倍と対決】

 米国のトランプ新大統領、欧州での極右勢力、日本では安倍政権など、危機に立つグローバル資本主義は排外主義者らを台頭させ、民主主義勢力とのせめぎあいが続いている。2016年を振り返り、2017年、どう展望を切り開くか。MDS(民主主義的社会主義運動)佐藤和義委員長に聞いた。(12月7日、まとめは編集部)


トランプと排外主義の危険

 今年の世界の動きを振り返ると、トランプ大統領誕生が最大のニュースだ。大半のメディアが予測していなかった彼が、なぜ当選したのか。

 まず、誰もが言うとおり、アメリカでの格差を拡大させるグローバル資本の災厄への不満だ。失業、賃金低下、生活条件悪化に対する市民・労働者の怒りが底流にある。

 たとえば民主党の予備選挙過程で、強いといわれたクリントンにサンダースが肉薄したことにも示されている。明らかに格差拡大、貧困への怒りが存在する。まさに1パーセントによる支配に対する強い怒りがあった。スペインでもイギリスでも米国でも、民主主義・基本的人権を守ろうとする勢力が前進はしたものの勝ちきるところまでにはいっていない。韓国・朴槿恵(パククネ)大統領の弾劾も、底流にあるのは1パーセントと99パーセントのせめぎあいだ。今後どう改革していくかは一致できていない。

 その時にグローバル資本が打ち出してきたのが排外主義だ。「労働者・市民の生活が悪化するのは移民のせいだ。難民のせいだ」と。あるいは「安い賃金で働く労働者がいる海外に工場移転するせいだ」。そういう宣伝がヨーロッパを含めて全世界にはびこった。現在の格差拡大、貧困、生活悪化の原因を社会的・経済的立場が弱い移民・難民に押し付ける考え方だ。それはグローバル資本に責任逃れをさせるものだ。

 トランプは、ウォール街(ニューヨーク証券取引所はじめ金融・証券業界が並ぶグローバル資本の本拠)からクリントンが多額の政治資金を得ていることを批判し「自分はそうではない。プアホワイトの利害を代表する」と言ったが、そんなことはない。現時点の彼の政策ではっきりしているのは、法人税・所得税減税だ。文字通り金持ちトランプとその一味≠フための政策だ。あれほどウォール街を非難したくせに、ゴールドマンサックス(世界最大級の投資銀行)出身者から財務長官を招くなど、重要なポストを与えようとしている。

新自由主義のイデオロギー

 各国に出てきているトランプのような排外主義者は、これまでは権力から遠かった者たちだ。だからといって民衆の側に立つ可能性があるとか、クリントンよりましだなどとはならない。

 排外主義とは、恐るべきものだ。基本的人権を「外国人だから」「移民だから」といった理由で否定する。移民の人権を認めず、制限しても当然だと言う。平等や基本的人権擁護という観点が欠落している。それは、グローバル資本の戦争と新自由主義政策のイデオロギーだ。

 第二次世界大戦前のファシズム、例えば日本の軍部を含むファシストたちは、世界恐慌の影響を受けた農村の惨状を何とかしようなどと言って財界の横暴や腐敗を糾弾した。そして、5・15事件や2・26事件を引き起こし、戦争への道を切り開いていった。満州事変からアジア・太平洋戦争を引き起こし、軍需独占資本に儲けさせ、多くの国民に悲惨をもたらした。

 ナチスだって同じだ。国家社会主義をかかげ、あたかも第一次世界大戦後のドイツの苦境に対して応えるかのようなことを言い、戦争への道を歩んだ。結果、ドイツの独占資本に利益を与えたのみだ。

 だから、トランプたち排外主義者が表面上グローバル資本を批判し、金持ちを批判しても、実際に何をするかを見なければならない。戦争を推進したり、軍事化や金持ち減税を行う実際の行動を見なくてはならない。排外主義は民主主義を根本から否定する危険な考え方だ。憎しみをあおり、外国人に対しては基本的人権を認めない考え方を許すなら、ついには労働者・市民の権利が否定されていく。まさに、1パーセントによる支配を強化するシステムとして機能する。

 世界の民主主義勢力は、戦争を総括し、反ファシズム闘争から学んでいる。簡単に「他国が悪い」と言ってはいけない。民主主義破壊の始まりであり、絶対に認めてはならないことだ。原理的に排外主義は民主主義と相いれない最悪の思想だ。あいまいにしてはならず、一歩でも譲ればすべてが攻撃の対象となる。分断支配とはそういうものだ。

 打倒しなければならない根本=1パーセントの支配者から労働者・市民の目をそらし、弱者を敵として描き出し、叩くことで解決するかのように意識を誘導する。

 繰り返し強調したい。

 たった62人の超大金持ちが全世界の半分にあたる資産を持つ。そこまで世界の資源と富を独占している。誰もがおかしいと思って当然だ。もはや支配の継続は困難だが、変革する勢力の前進が民主主義的社会主義の方向で勝利しきるところまでには至っていない。そこで支配層が担ぎ出してきたのが、トランプであり、フランスのルペン(国民戦線党首)、オーストリアのホーファー(自由党党首)、イギリス独立党など排外主義の極右勢力だ。これが最後の切り札だ。そうせざるを得ないほど、グローバル資本主義は危機に瀕している。通常の支配体系では持たなくなっているのだと思う。

凶暴さ極まる安倍政権

 安倍政権も基本的にトランプと同じだ。歴史修正や「慰安婦」問題、難民問題の観点からも排外主義だ。

 ただ、日本での移民労働者は欧米に比べて多くはない。だから国として中国・朝鮮・韓国を仮想敵国のように扱い、排外主義を煽りたて、体制を守ろうとしている。

 安倍政権の特徴は、その凶暴さだ。自公・維新独裁体制≠ニいうべきで、その凶暴さ、乱暴さはここに極まれりといえる。これまでなかなかなかった政権だ。

 沖縄高江・辺野古での弾圧体制。沖縄平和運動センター山城議長に対する3度の逮捕と長期勾留。反対派市民多数の逮捕・勾留。平和運動センター事務所や抗議のテント内の家宅捜索。何の法的根拠もなく市民の命を危うくしている。戦争体制の実行過程に入っているような異常な事態だ。国会でも、戦争法を強行採決した。カジノ法に至ってはろくに審議もしていない。年金カット法も同様。「納得を得なくてもかまわないから通してしまえ。あとは選挙で勝てばよい」といった思い上がった乱暴なやり口だ。

 だが、安倍に誇るべき成果はない。アベノミクスが経済成長をもたらすというが、「3本の矢」も「新3本の矢」も何の成果もあげていない。TPP(環太平洋経済連携協定)も思い通りに進まない。実質賃金は下がる一方で、消費も増えないし、景気も良くならない。

 それでも「改憲までは」と必死に動いている。今を逃せば、もう改憲はないと思っているのだろう。

海外派兵と連動する新基地

 軍事面では、新任務を付与したうえで南スーダン派兵継続を強行した。賞恤金(しょうじゅつきん)(死亡・障がい時の弔慰・見舞金)を9千万円に引き上げたり、駆けつけ警護時の日当を8千円上乗せしたり。もし、殺したり殺されたりしたら、もっと装備を強化し、さらに「改憲は必要だ」と世論を誘導しようとの意図が明らかだ。

 同時に、沖縄での強行ぶりを見ても、高江でまず突破し、次に辺野古も強行して、伊江島でも―。日米軍事戦略体系を米国から引き継ぐ腹だ。トランプがどう出るにせよ、日本側の意思で基地を推進するということだ。

 南スーダン派兵と辺野古新基地・高江ヘリパッド建設は連動している。日本の軍事力強化が目的だ。仮にアメリカがアジアから手を引くのであれば、日本が自ら中国に対抗していく。そうした将来の必要性も見据えて沖縄での基地の展開を考えていると見るべきだ。

 TPPはアメリカが抜けても日本がやろうとする。安倍の見栄だけではない。基地もTPPも、日本のグローバル資本が必要としているのだ。

 安倍の戦争国家体制作りというのは、社会保障、医療「改革」にもあらわれている。

 老人医療の負担増、介護保険の負担増と給付カット。要支援1、2をなくし総合事業化して介護保険から外す。はては要介護1や2も保険給付から外そうとしている。「自助」を根本とし、公的負担はしない。生産活動に役立たないものは無駄だとして、金(かね)を使わないという姿勢が徹底している。年金カットもそうだ。カットして、浮かせた財源は軍事費増、法人税・所得税減税に振り向けようとしている。

 「働き方改革」などとあたかも残業規制するかのように言うが、実際にやっていることは労働法破壊だ。「保育の充実」「介護離職ゼロ」も同様だ。介護事業者が事業縮小せざるを得ないように介護保険点数を切り下げて「介護離職ゼロ」はないだろう。

 保育では確かに自治体が必死になって保育所を増設しようとしている。当然、働くために必要なのだから市民要求に応えざるを得ない面がある。だが、グローバル資本の側は、安価な労働力を大量に供給させるために女性が働かなければ困るが、金は出したくない。だから、民営化で公的保育を解体する。無認可保育所や企業内保育所をつくる。

 これらの施設では有資格者定員を減らす。促成栽培の経験のない保育士でも、有資格者なしでもいいとする。保育の質は最低でもいいから、受け入れる子どもの人数は増やすという数合わせだ。母親を低賃金で働かせ、その子どもはろくでもない環境で育ってもかまわないと。

市民生活守り発展させる

 グローバル資本主義の支配は、格差拡大・貧困を生み出すのが特徴だ。実質賃金が下がり消費が増えない中で、それでも儲けるために、人間生活で根本的に必要な医療、介護、保育、教育を資本の増殖の場としていく。

 医療であれば、病気になってから薬を買わせるのではなく、検査の基準値を操作して病気を作る。また、「病気の予防」と称して効きもしないワクチンや薬を売り、グローバル製薬会社を儲けさせようとする。混合医療を認め、先進医療を受けるために民間の医療保険に入らせて保険会社に儲け口を与える。

 低賃金と自己負担増で生活を悪化させ、それでも何とかしたかったら自分の金でやれ。そのなけなしの金でまたぞろ資本が儲かるという構造を作っている。非常にあつまかしい。そこまでして、軍事費を増やし、金持ちや大企業からは税金を取らない。こんなことが続くわけがない。

富を正しく配分

 トランプはメキシコが悪いと言い、安倍は中国が悪いと言う。だが、メキシコ人を使って儲けているのはアメリカの資本であり、中国人を使って儲けているのは日本の資本だ。日本の市民が苦しいのは、中国が悪いのではなく、労働者を非正規で雇い解雇し賃金を抑える日本の資本のせいだ。だから、改憲、戦争国家づくり、医療・福祉・教育切り捨て、大企業・金持ち減税と大衆増税、労働法破壊のすべてとトータルに闘っていかなければならない。トータルに市民生活を守り発展させる。

 富はある。その富をちゃんと配分させなければならない。1パーセントの少数支配を維持しようとすれば、その矛盾を解消するようなふり―労働者・市民の要求に応えるふりをしなければならない時がある。奨学金制度や保育園増設がそうだ。その時、ごまかしに終わらせず押し込んでいく。非正規・無資格者ではなく、保育の質を保ちつつ十分な保育定員を確保する。給付型の奨学金を3万人にとどまらせず、誰もが受け取れるようにする。そのための財源を富裕層からちゃんと取ってこい、と対抗軸をはっきりさせて闘わなければならない。

 安倍は悪政を強行することによって「なにをやっても無駄だ」とあきらめさせようとしている。「日常生活が苦しいから」と深く考えることをできなくさせた上で、仮に南スーダンで自衛隊員が死んだら、一気に改憲・戦争国家づくりへの材料にしようとする。

揺らぐ少数支配

 核心は、1パーセントの支配とは少数支配であり、それが揺らいでいるからこそトランプのようなものが出てきたということだ。だとするならば、アメリカでサンダースが勝ち、英国でコービン党首の下での労働党が勝ち、スペインでポデモスが政権の多数派になっていくような可能性があり、フランスでルペンを当選させない、日本で安倍を打倒する可能性があるわけだ。

 そのためには、トータルに働きかけることだ。南スーダン派兵に反対するのはもちろん、辺野古・高江の軍事基地に反対する市民に連帯して闘っていく。それも、本土やグアムに移設するとかではなく、「基地はどこにもいらない。即時無条件撤去だ」という観点で連帯する。連帯して闘い、勝利していくことが、安倍の改憲体制構築を阻止することでもある。そのための沖縄署名などの運動がある。

 野党共闘も運動を構築する中で準備しなければならない。

 民進党内にも改憲派は多数存在する。それでも今のところ改憲が一気に進まないのは反対運動があるからだ。

 衆院選に向けて、権力は当然手をまわしている。連合を使って民進党を共闘に参加させないようにする。だからこそ、共闘のために蓮舫執行部に譲歩するのではなく、大衆行動を強める中で蓮舫執行部を共闘参加へと追い込まねばならない。その結果、たとえ民進党が共闘から降りたとしても、新潟知事選のように、共産党、市民その他の政党で共闘し、候補者を立て、票を取り、地域を変革していけば勝てる。

見せかけの支持掘り崩す

 安倍たちの得票率は20%程度でしかない。アベノミクスは出尽くし、ダメなことは明らかだ。だが、民進党があまりにだらしなく安倍批判の受け皿となれない中で、メディアを統制してやっと5割、6割の支持率があるかのように見せかけている。本当の支持ではない。

 これを掘り崩す闘いをしなければならない。高江・辺野古を絶対に孤立させず、展望を持って闘い、3月の部隊交代を許さず南スーダンからの撤退を求める。あるいは、介護・保育の向上、介護士・保育士の待遇改善、奨学金等々取れるものはすべて取って押し込んでいき、安倍を一歩一歩追い詰める。民進党を野党共闘に取り込むことを目的化してスローガンをあいまいにするのではなく、民進党をも変える。すでに戦争法反対闘争で結果は出ている。

 今の安倍への支持など浮動する。年金削減などすぐに結果が出てくる。カジノが経済成長につながるなど何の根拠もない寝言だ。日本人が出入りするようになれば貧困層が金を巻き上げられる事態まで起きてくる。

共闘は運動の力で築く

 MDSは、展望を掲げ共闘は運動の力で築き上げねばならないことを明確に主張する。

 また、とりわけ兵士が戦争に行って人を殺してくることの恐ろしさも踏まえておかなければならない。単に自衛隊員の死傷者が出た、出ないというだけではなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)も含む病んだ青年たちをたくさん生み出し、社会に抱えるという日本社会になってしまう恐ろしさがある。そこに誰も思いが至らない。そうした点からも海外派兵し殺し殺されることを阻止しなければならない。

 1パーセントの支配を根底から崩していくために、生活被害の現場である地域から住民の意識を変えていかねばならない。それが署名運動であり、地方議会選挙だ。MDSは地方選を闘い地域変革する経験を持っている。日本各地の大衆行動や中央行動とあわせ、地域の市民とともに運動の力で共闘を構成し、衆院選を闘う。自民党の改憲体制を地域から崩していく。







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