2017年03月24日 1470号

【「共謀罪」はなぜ「現代版治安維持法」なのか/よく似た政府のウソ説明、でも正体は/戦争遂行のための市民弾圧法】

 「共謀罪法案は現代版治安維持法だ」と言われるが、そもそも治安維持法がよくわからない−−読者からこのようなご意見をいただいた。もっともな疑問である。そこで今回は、「稀代(きだい)の弾圧法」と言われた治安維持法の基礎知識を確認する。今国会に提出されようとしている共謀罪法案との共通点が浮かび上がってくるはずだ。

政府の詭弁がそっくり

 治安維持法は1925年3月の帝国議会で成立した弾圧法です。天皇制(国体)と私有財産制を守ることを法益とし、これらに悪影響を与える組織団体を結成したり、加入することを犯罪としました。つまり、ソビエト連邦の成立(1922年)後に高まりつつあった共産主義運動の封じ込めが目的とされたのです。

 ただし、拡大解釈が容易な条文だったため、治安当局の恣意的な適用によって取り締まりの対象は飛躍的に広がっていきました。その結果、大日本帝国憲法が制限付きながらも保障していた言論・表現・集会・結社の自由は有名無実と化したのです。

 この弾圧法はいきなり制定されたわけではありません。前触れとなった法案がありました。1922年に提出された過激社会運動取締法案です。議会内外の反対運動により廃案となるのですが、治安維持法の制定過程では同法案との違いが政府によってさかんに強調されました。

 「過激社会運動取締法案にあった『宣伝』への罰則を治安維持法案では削除した。言論の自由が侵害されることはない」。あるいは「『国体』の変革や『私有財産制度』を否認することを目的としてなされる行為を処罰する法律なので、濫用される心配は無用である」等々。

 当時の小川平吉司法相は国会で「無辜(むこ)の民にまで及ぼすという如(ごと)きことのないように十分研究考慮をした」と答弁しています。「今日の労働運動を為す人々の如きは全然この法律に無関係だ。…政府は責任をもってこの法律を拡張して、罪のない人までも引っ張り込むことはしない」とまで言いました。

 共謀罪法案をめぐる現在の政府の説明とそっくりじゃないですか。たとえば、安倍晋三首相は「一般の方々がその対象となることはあり得ない」(1/24衆院本会議)と断言しました。「国民の思想や内心まで取り締まる懸念はまったく根拠がない」(1/25参院本会議)ともね。

 覚えておいてください。弾圧法を準備する側は必ず「対象を限定した」だの「一般市民は無関係」だのと言い張るものなのです。

戦時治安法制の役割

 治安維持法が国内で最初に適用されたのは京都学連事件です(1925年12月)。同志社大学で軍事教練反対のビラが見つかったことを口実に、同志社と京大の社会科学研究会会員を一斉検挙したのです。このように、治安当局は共産党員にしか使えないはずの法律を拡大解釈して、反政府的とみなした人びとの弾圧に「活用」していきます。

 拡大適用を既成事実化するかたちでの法改正も行われました。目的遂行罪の導入です(1928年改定)。政府にとって不都合な言論や行動すべてを「結社の目的遂行のためにする行為」とみなして弾圧するためです。1941年には、治安維持法の違反者を刑期が終了した後も拘禁できる予防拘禁制度などの改悪が加えられました。

 かくして治安維持法は、民主主義者や自由主義者、宗教団体の取り締まりにまで猛威を振るうようになりました。戦争遂行の邪魔になる勢力や個人を排除する、戦時治安法制として機能したのです。

自由な言論を圧殺

 この治安維持法と共謀罪法案には多くの共通点があります。まず、団体の構成員を処罰しようとする団体規制法であること。処罰範囲が不明確で拡大解釈の余地が大きく、治安当局が標的とした集団を一網打尽的に摘発することが可能な点も同じです。

 今回の政府原案は「組織的犯罪集団」の関与を要件とし、準備行為を処罰条件としていますが、いずれも明確な定義はありません。金田勝年法相は、普通の団体が性質を一変させた場合、組織的犯罪集団として処罰対象になり得ることを認めました(2/2衆院予算委)。基地建設に反対する自然保護団体が、工事を止めるための座り込み行動を計画し現地の地理を調べたら、組織的威力業務妨害罪の共謀罪容疑で根こそぎ逮捕されかねないということです。

 また、共謀(計画)を立証するとの名目で、警察の捜査権限が拡大されるでしょう。具体的には、盗聴やスパイ捜査、密告の奨励です。メールやLINEも当然、監視されます。これでは自由にモノを言うこともできません。

 もうおわかりですね。共謀罪法案が現代版治安維持法であるということが。これは、戦争政策に反対する市民の声を封じ込めるために使われる弾圧法なのです。  (M)

 (参考文献 『新共謀罪の恐怖』緑風出版)

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