2017年04月14日 1473号

【TVの世界 第6回 「スポンサーは神様」?】

 1977年4月、私は希望に胸を膨らませ緊張した面持ちで日本テレビの入社式に臨んでいた。そこで私が聞いたK専務の訓示は、愕然(がくぜん)とするものだった。

 「最初の3日でその人間の評価が決まる。私に気に入られたら勝ちだ。嫌われたら終わりだ。気に入った人間は何をやっても褒めてやるし出世させる。嫌いな人間は徹底的に虐めて追い出してやる」「君たちどんどん借金をしろ。そして踏み倒せ。借金を踏み倒して威張る人間こそ理想の放送人だ」。K専務は読売新聞の出身で、日本テレビを資本面、論説面、人事面で支配していた読売新聞の体質を象徴するような人物だった。入社試験の最終面接で、「憲法9条をどう思うか?」と私に質問し、「護るべきです」と答えると「君は共産党の支持者だろう!」と絡んできた人物だ。

 「とんでもない放送局に入ってしまったな」と暗澹(あんたん)たる気持ちになったが、気を取り直す暇もなく翌日から新入社員研修が始まった。制作局、報道局など現場のプロデューサー、ディレクターが講師を務める研修は面白く新鮮な毎日だった。

 ドラマの演出を長年担当してきたGプロデューサーの話はスリリングで面白く、流石(さすが)一流の放送人はすごい!と感動させられ講義は終わった。「何か質問はありますか?」温厚な性格のGさんは静かに語った。「ドラマを作っていて一番苦労された点は何ですか?」ドラマの制作を志望しているS君が尋ねた。「ずばり、スポンサーのご機嫌を損ねないことですね。スポンサーは神様ですからね。クレームがついたらどんなに優れた作品でも放送出来ないです。試写の段階で終わりです」「具体的には、どんなケースがあるのですか?」私は素早く質問をたたみかけた。「一番気を遣うスポンサーは自動車メーカーです。ドラマのストーリーに交通事故の話が出てきてはいけません。特に事故で死んだ話は絶対だめです。それから、ライバルメーカーの車が画面に1台でも映っていてはいけません。だから、ドラマのロケ地を選ぶのが大変なのです」

 『土曜ワイド劇場』(テレビ朝日系)をはじめ、サスペンスドラマの最終シーンは、必ずといっていいほど海の見える断崖で撮影されている。これなら背景に自動車が映り込む心配はないからである。

 新聞社による民放支配、命令に絶対服従の反知性主義、スポンサーの番組への介入。今も変わらない民放の体質だが、これでは良質の番組は作れるはずはないのである。

(フリージャーナリスト)
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