2017年06月02日 1479号

【未来への責任(225)韓国新政権 植民地主義の清算へ】

 5月10日、文在寅(ムンジェイン)氏が第19代韓国大統領に就任した。彼は盧武鉉(ノムヒョン)政権で主席秘書官を務め政権を支えた。そして、「親日反民族行為真相究明に関する特別法」(2004年制定)を同政権の大きな功績としてあげていると言われる。文大統領が、植民地主義の清算という課題を理解し、その実行を自分の政権の任務の一つと捉えていることは確かであろう。

 ただ、彼が就任初日に出した「業務指示書」第1号は、大統領直属の雇用委員会設置の準備であった。併せて雇用拡大のための対策を練るよう関係省庁に求めた。続く第2の「指示書」は、「国定教科書」の廃止と検定体制への転換、5・18民主化運動記念式典の斉唱曲に光州(クヮンジュ)民主化闘争の過程で生まれた『あなたのための行進曲』を指定したことだった。

 文大統領は、「積弊」(過去の政権時代に積もった弊害=不正、不公正な社会構造)の象徴たる朴槿恵(パククネ)前大統領を弾劾・罷免に追い込んだ「ろうそく革命」の中から誕生した。「ろうそく革命」を主導したのは、セウォル号事件遺族であり、「ヘル(地獄)朝鮮」の下で「7放」(恋愛、結婚、出産、マイホーム、人間関係、夢、就職の7つを放棄)を強いられる若者たちであり、財閥主導経済の下で苦しむ労働者、農民たちであった。彼らに支えられ、彼らの期待に押し上げられて文氏は大統領となった。

 だから政権に就いて真っ先に雇用対策に手をつけたのは当然だ。セウォル号事件、崔順実(チェスンシル)国政介入事件など重要課題についての再調査を指示したのも同じ文脈である。文政権は先ず「積弊清算」に取り組んでいかなければならない。

 また、文政権は、北朝鮮の核問題、THAAD(サード)(高高度防衛ミサイル)配備など差し迫った外交課題も抱えている。このような中で、文政権の中で、過去事清算が後回しにされる可能性は否定できない。

 しかし希望はある。就任直後、文大統領は安倍首相と電話で会談した。内外に多くの課題を抱えながら政権に就いた文大統領に、安倍は「慰安婦」問題に関する日韓「合意」を「責任を持って実施」するよう迫った。これに対し文大統領は「国民の大多数が情緒的に受け入れることができないのが現実だ」と述べ、受容できない旨を表明した。

 文大統領の両親は、朝鮮戦争時に北の咸鏡南(ハムギョンナム)道興南(フンナム)から南の巨済(コジェ)島に逃れ、彼はその島で生まれた。文大統領が中学生であった1965年に日韓条約が締結され、国交が正常化されたが、彼の父親はこの合意を「悪である」と言ったという。文氏はこの父親の影響を受け、高校生の時には朴正煕(パクチョンヒ)大統領の「3選改憲」反対のデモに参加している。そして、先述したとおり盧武鉉政権を支えた。

 この5月、2012年の大法院判決から5周年を迎える。「植民支配と直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれていたと解することは困難」との判断は生きている。これを活かす道をさぐっていきたい。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

ホームページに戻る
Copyright Weekly MDS