2017年06月09日 1480号

【国連特別報告者の公開書簡/共謀罪法案はプライバシー侵害の恐れ/世界に恥をさらした人権理事国日本】

 「世界基準の民主主義国家としての道を歩むべき」と国連の特別報告者が共謀罪法制定を急ぐ日本政府に強い「助言」を送っている。ふたことめには「自由・平等、法の支配を共有する国際社会との連携」を口にする安倍政権。自ら進んで1月から国連の人権理事国に就いたにもかかわらず、人権理事会が任命した専門家の指摘に逆ギレ。いくつもの人権委員会から立て続けに指摘を受けている日本政府。人権後進国の姿を世界にさらした。

「建設的対話」?

 経過を整理する(別掲参照)。5月18日、国連人権理事会が任命したジョセフ・カナタチ特別報告者(プライバシー権担当)から安倍晋三首相にあてて、共謀罪法案はプライバシー権侵害の恐れありと指摘する書簡が送付、公開された。法案が衆院法務委員会で強行採決された前日のことだ。

 政府・外務省は同日、強く抗議。カナタチ特別報告者は翌19日朝、再度日本政府に要望を伝えた。政府はこれに答えず、22日、菅官房長官が「個人的発言、一方的な公開書簡、内容も不適切」とする見解を表明。この見解に対し、カナタチ特別報告者から反論が示された。それに菅が逆上し、24日「何か背景がある」とこきおろした。

 特別報告者の質問に全く答えないどころか、抗議し、あげくには「陰謀」との印象操作まで行った。

 特別報告者は、人権理事会が任命した専門家ながら無償。政府や組織から独立し、人権高等弁務官事務所の協力を得、各国の人権状況を監視・調査・報告する職務にあたる。カナタチ書簡は「国連」及び「国連人権高等弁務官事務所」のレターヘッドのある公式なものであり、調査内容は人権理事会に報告される。「個人的発言」と無視できるものではない。

 

 まして日本政府は昨年10月、人権理事国への立候補にあたり「特別報告者との有意義かつ建設的な対話の実現のため、今後もしっかりと協力していく」とする誓約書を自ら提出し、今年1月から理事国になっている。まさか、これが「建設的な対話」だというのではあるまい。

 誓約書を守るつもりなら、書簡を「不適切」と切り捨てず、誠実に答えるべきだ。カナタチ特別報告者は5点にわたり懸念を表明し、日本政府に4点の質問をした。一言でいえば「プライバシー権や表現の自由を不当に制約する恐れがある。保護策は法案のどこにあるのか」。認識に間違いがあれば正してほしいと書いている。日本政府は「誤認」をただせばすむはずが、「怒りの言葉を並べただけ」(カナタチ反論書より)の抗議文を送り、1つとして説明しなかった。国会審議の不誠実な態度を国連の特別報告者にも示した。指摘は図星であり、答えようがなかったのだ。

国際法に反抗

 G7に参加した安倍は、現地でグテレス国連事務総長と面談し、圧力をかけた。事務総長は「(特別報告者は)国連人権理事会に直接報告する独立した専門家である」と当然の発言をしたが、政府は、特別報告者の個人プレーだとねじ曲げた。安倍政権のうろたえぶりが見て取れる。

 越境型国際犯罪防止条約への加盟に共謀罪は必須要件とする政府見解も、同条約の立法ガイドラインを作成した専門家に否定され、あわてて国連の事務局に押し掛け「必須だと言われた」と報道させた。特定秘密保護法案のときには、特別報告者の調査を延期させ、気に入らない報告書が出れば、人権理事会の経費負担を凍結までした。沖縄の山城博治さんの長期勾留には特別報告者など4人の連名文書(2/28付け)で、人権侵害を指摘されていることが発覚した。

 英国エセックス大学人権センター藤田早苗フェローは、自由権規約委員会の議長が「日本は何度言っても勧告に従おうとしない。国際社会に反抗しているように見える」(2013年の秘密保護法強行採決後)と語っていたと伝えている。日本政府はその後、戦争法、共謀罪とますます、国際法秩序に反抗する態度を強めている。「世界基準の民主主義」の道をとり戻さなければならない。



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