2017年08月04日 1488号

【安倍9条改憲は憲法破壊/自衛隊の侵略軍化に拍車/軍事優先・人権否定の国家改造】

 安倍首相は5月以降「1項2項を残しつつ自衛隊を明文で書き込む」との憲法第9条改憲方針を繰り返し表明している。これは第9条を空文化し憲法を根底から覆すものであり、決して許されない。

 自民党憲法改正推進本部は6月20日、全体会合を開き改憲原案とりまとめを始めた。

 たたき台とされるのは、第9条の後に第9条の2を新設するもの。第9条の2には、(1)自衛隊を「我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織」と定義、(2)「前条の規定は自衛隊を設けることを妨げるものとして解釈してはならない」との2つの項目を書き込む(6/22毎日)。

平和主義の否定

 憲法第9条第1項は一切の武力行使を永久放棄した。第2項で戦力不保持と交戦権の否定を定め、第1項の保障とした。

 この第9条の解釈を巡り、日本国憲法制定議会で吉田首相(当時)は、「自衛」を口実とした戦争が繰り返されてきたことから、新憲法では自衛のための戦争も認められないと明言した。憲法学の「通説」でも「1項では侵略戦争を放棄したが、自衛戦争等まで放棄していない。そして2項で戦力不保持と交戦権を否定した。その結果、侵略・自衛・制裁戦争すべてが結果的に放棄されている」とする。

 だがすでに安倍は戦争法によって第1項と第2項「交戦権否定」を空文化し、集団的自衛権行使まで認めた。吉田が述べた「自衛」を口実とした侵略戦争を可能とするものだ。その上、自衛隊の存在を憲法に書き込むことは「戦力不保持」の規定まで空文化することとなる。「戦争放棄は口先だけです」と国内外に宣言するに等しい。

軍事の肯定は憲法破壊

 憲法で自衛隊の存在を認めることは、「防衛」=軍事を理由としたさまざまな人権侵害を引き起こす。

 日本は、アジア・太平洋戦争での侵略への反省から軍事そのものを否定した。その価値観の表れが憲法第9条だ。当然、軍事に公共性・公益性は認められない。

 だが、憲法で自衛隊の存在を認めることは、軍事を肯定することだ。これは、自衛隊の「公共性」を理由とした軍事優先に道を開く。2016年の厚木基地爆音訴訟で、最高裁は自衛隊の夜間訓練に「高度な公共性・公益性」を認め、平穏な生活の回復を求めた原告住民の願いを踏みにじった。こうした国家による人権侵害が憲法の下で広がっていく。

 憲法の根幹である第9条は、時の政治体制や国際情勢の推移によっても変更できない。これは裁判所ですら認めていることだ(百里基地訴訟東京高裁判決)。憲法原理を根底から覆すことは絶対に許されない。

侵略軍化の歯止めをなくす

 「たたき台」の(1)「自衛隊の定義」は、自衛隊の侵略軍化を無制限に認めることを意味する。

 自衛隊は、侵略性が高く、かつ、近代戦争を戦い抜くことができる最新兵器をすでに保有し、拡充しようとしている。同時に、イラク戦争参戦、南スーダンPKOなど海外遠征軍としての実績も積んできた。自民党内からは巡航ミサイルの調達など敵基地攻撃能力の強化すら提言されている。

 その自衛隊を無条件に「防衛のための必要最小限の実力組織」と定めるのが@だ。「自衛隊」という名称の日本軍は、侵略能力を高め「敵基地攻撃能力」を持とうとも、「自衛のための実力組織」にとどまる。憲法上も侵略軍化の歯止めはなくなる。

基本的人権侵害も

 (2)の「解釈してはならない」とは、憲法第9条が自衛隊を禁じていると考えてはならない≠ニいうことだ。「『自衛隊は違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくす」という安倍の意向をそのまま条文にし、憲法学者の口封じを狙ったものだ。

 まず、近代立憲主義に反する。憲法は主権者が権力を縛るものだ。権力が主権者を統制するものではない。憲法条文で、内心の自由まで侵害し、思想統制をするという主従逆転のとんでもない条文だ。

 最大の狙いは平和・人権運動封じだ。

 「解釈してはならない」なら、「9条は自衛隊を禁じている」との表明も許されない。平和・人権運動は、1960年代から恵庭事件、長沼ナイキ訴訟、百里基地訴訟など自衛隊法そのものを違憲とする訴訟を起こし、平和的生存権(平和のうちに生きる権利)を確立してきた。自衛隊イラク派遣違憲訴訟名古屋高裁判決(08年4月)では、裁判で守られるべき具体的権利であるとの判断を引き出すところまで前進させた。

 しかし(2)のように定めることで、提訴すること自体を違憲とする。裁判闘争まで制限し、平和的生存権実現の闘いを根本から封じる狙いだ。

 安倍9条改憲は、憲法そのものの破壊であり、自衛隊の侵略軍化を正当化する。そして、平和的生存権を否定し、戦時には軍事目標となる自衛隊との共存を強いる。

日本国憲法 

第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

第二項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

百里基地訴訟東京高裁判決(抜粋)

(憲法第9条は)前文で表明された平和主義を制度的に保障するため、戦争放棄という政策決定を行い、それを内外に宣明した、憲法の憲法と言うべき根本規範である。したがって、その意味内容は、まさに、法規範の解釈として、客観的に確定されるべきものであって、時の政治体制や国際情勢の推移等に伴ってほしいままに変化させるべき性質のものではない。

出典:広島平和研究「憲法9条と平和的生存権」
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