2017年09月01日 1491号

【未来への責任(231)“明治150年”が覆い隠す植民地主義】

 来年、明治維新から150年を迎える。安倍政権は昨年11月、「明治以降の歩みを次世代に遺すことや明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは大変重要なこと」として“明治150年”に向けた各府省庁連絡会議を設置し、7月には中間とりまとめを行った。官民総がかりで明治維新の「偉大さ」を国内外にアピールしようとするものである。具体的にはロゴマークの作成、「明治150年」を冠した大会の開催、記念切手・貨幣の発行、海外向けPR動画の作成、明治期の歴史探訪ツアー商品開発など様々な「メニュー」を列挙している。

 安倍政権が、学ぶべき「明治の精神」とはアジアにおいて他国に先駆けて近代化を成し遂げた「スゴイ日本」で、裏にある侵略主義・植民地主義を覆い隠し、一面的な歴史を刷り込む歴史修正主義そのものである。

 明治維新に内包された植民地主義の思想は、吉田松陰や福沢諭吉の言葉に象徴される。「いま急いで軍備を整え、軍艦や大砲をほぼ備えたならば、ぜひとも蝦夷の地を開拓して諸大名を封じ、隙に乗じてカムチャッカ・オホーツクを奪い取り、琉球をも諭して内地の諸侯同様に参勤・会同させ、朝鮮に要求して質を収め貢を奉っていた昔の盛時のようにさせ、北は満州の地を割き取り、南は台湾・ルソンの諸島をわが手に収め、漸次進取の勢いを示すべき」(吉田松陰『幽囚録』)「彼(朝鮮)の國勢果して未開ならば之(これ)を誘ふて之を導く可(べ)し、彼の人民果して頑陋(がんろう)ならば之に諭して之に説く可し。…遂に武力を用ひても其進歩を助けん」(福沢諭吉『時事新報。朝鮮の交際を論ず』)と、植民地主義丸出しの主張を展開していた。

 明治維新150年に取り組むべき関連施策の中に「『明治日本の産業革命遺産』を核とした産業遺産に関する理解増進」が位置づけられている。これら「明治産業革命遺産」はユネスコ登録の過程で異例の経過をたどった。元々文化庁の文化審議会は別の「遺産」をユネスコへの推薦候補に決定していたが、内閣主導で強引に推薦決定された。安倍首相の「君がやろうとしていることは『坂の上の雲』だな。これは、俺がやらせてあげる」との言葉通り、先頭に立って登録を推進したのが加藤康子氏(現在、内閣官房参与。安倍の幼馴染。加藤勝信厚生労働大臣の義姉)。ユネスコ大使の経験を活かし登録を裏で推進したのが木曽功氏(元内閣官房参与。加計学園千葉科学大学学長)。そして経団連の今井敬名誉会長だった。今井は登録遺産のひとつでもある八幡製鉄所を運営する新日鐵住金の名誉会長、今井尚哉首相補佐官の叔父である。森友・加計問題と同様にすべてを私物化した安倍人脈のもとで推進されたのである。

 明治礼賛の根底にあるのが「ヘイトスピーチ」につながる自民族優越主義(エスノセントリズム)・差別排外主義の根源としての植民地主義であり、「日本スゴイ」「日本ファースト」の思想である。明治150年の狙い、安倍による歴史の「私物化」を許してはならない。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)

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