2017年12月08日 1505号

【安倍は解決できない待機児童問題 背景に雇用と賃金の劣化】

 安倍首相の言う「国難」の一つが少子化問題である。解決に向けて消費税増税分を「すべての保育所、幼稚園の費用無償化にあてる」と打ち上げたが、総選挙後には認可外保育施設を対象外にするとした。理由は国の基準を満たしていない認可外保育施設への入所を推し進めていると受け止められるから≠ニいうとんでもないもの。安倍政権がどれほど待機児童問題に無理解かをあらわにした。

 待機児童問題は認可保育所入所の制限から生まれ、認可外に通わせる世帯の大多数は認可保育所への入所を希望する。これを安倍は無視している。さらに追い打ちをかける不公平に不満が噴出した。激しい反発の声に押されて方針は修正されたが、改めて待機児童問題を浮き彫りにした。

 いまだに解決しない待機児童問題に潜むものは何か。

政権の対策は軒並み失敗

 待機児童問題は20年以上前から存在していた。「その解消に向けて」として時の政権は政策を打ち出した。2001年に小泉政権の「待機児童ゼロ作戦」、08年に福田政権の「新待機児童ゼロ作戦」、10年に鳩山政権の「子ども・子育てビジョン」などだ。どれも解決には至っていない。安倍政権も13年に「待機児童解消加速化プラン」で受け皿を少し増やしはしたが、需要がそれ以上に伸びたため問題は深刻化している。

 安倍政権は6月、待機児童ゼロ達成の3年先送りを決定し、5年以内に32万人分の受け皿を増やす「子育て安心プラン」を発表。9月には整備を2年前倒しするとした。「積極的姿勢」と宣伝するが、88・6万人分の受け皿が必要との試算(野村総研)からすればゼロ実現は不可能だ。

 少子化が進んでいるにもかかわらず、なぜ待機児童が生じるのか。

 認可保育所の定員は全国で約273万5千人、利用希望者は約265万人である。表面上「充足」のはずだが、数字だけでは問題は見えない。

 待機児童の7割以上は都市部に集中している。また、0〜2歳児を受け入れる保育施設が非常に不足し、待機児童の約9割がこの年齢に集中している。これを解消するためには、国・自治体の責任による公立、少なくとも認可保育所の飛躍的な増設が必要だ。

 しかし、安倍政権はその方向ではなく規制緩和など安上がりの対応しかしていない。基準を緩くした小規模保育を認可の対象とする、保育士配置基準が低い企業主導型保育所の増設に力を入れる、などはその象徴だ。32万人の受け皿整備には約3000億円が必要とされるが、その費用捻出に産業界へ「負担協力」を求めている。小手先のその場しのぎ策に終始しており、子どもをしっかりと育てる観点などまったくない。

 

雇用・賃金の改善が必要

 「女性活躍推進法」「一億総活躍社会」と、安倍政権はしきりに女性の就労推進を口にする。現実はすでに先を進んでいる。25〜44歳の女性就業率は、01年の62・0%から16年には72・7%へと上昇。本来ならば、それを見越して保育所設置を進めるべきだった。ところが、その上昇を「政府が見誤り、対応が後手に」(11/1朝日)になっているのが実情なのだ。政権の過失といっていい。

 女性就業率は、安倍政権が女性の就労を勧めているから伸びているのではない。もっと切実な要因が横たわっている。雇用が不安定で実質賃金も低下しているなかにあって、「専業主婦」が多数を占めていた時代とは違い、夫の収入だけで家計を運営するのは困難で妻も収入を得ることが切実になっているからだ。

 いわゆる「中間層」の収入状況を見ると、その意味合いが分かる。年収500〜1000万円の層は1999年から17年にかけて75万人以上減少した。35〜39歳の年収を99年と16年で比べると53万円の減少、40〜44歳では49万円の減少となっている。安倍・自民党政権の下では今後もこの減少傾向が続きさらに強まることを誰もが予想するなかで、妻の就労が広がることは当然であろう。

 雇用と賃金を劣化させてきたツケが待機児童問題を生み出した。とすれば、待機児童ゼロを実現するには、根本的な雇用と賃金の改善にも目を向けなければならない。もちろん、待機児童解消は緊急に手を打たなければならない課題だ。国の責任で認可保育所建設と保育士確保政策を進め、その財源を保障しなければならないことはいうまでもない。  
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