2018年01月05・12日 1509号

【民主主義の先端を拓くソウル市/日韓交流ツアールポ(上)/寄稿 土屋のりこ 東京・足立区議/福祉の死角をなくす「出前福祉」/住民自らが決定できる街づくり】

 11月23〜25日、平和と民主主義をともにつくる会・東京代表の土屋のりこ足立区議がなかまユニオンの日韓交流ツアーに参加し、劇的な変化を遂げているソウル市パク・ウォンスン市政の地域事業に触れた。2回にわたってルポを寄せてもらう。



 「チャットン」という福祉策が、ソウル市の福祉捕捉率(注)を劇的にあげたという話を耳にした。20パーセントから60パーセントへ。日本の福祉(生活保護)の捕捉率は2割程度と言われている。

 福祉の死角をなくすことを掲げ、行政が生活困窮があるところを探し、入り込んでいって見つけることをやりだしている。他にも、市民予算なるものがあり、20兆ウォン(約2兆円)のソウル市予算のうち500億ウォン(約50億円)を市民が自分たちで事業を決め活用しているという。

 チャットンとは何なのか。市民が決める自治、なぜそのような画期的なことができているのか、知りたい。知って議会活動に活かしたいと考えた。その矢先にソウル連帯ツアーを聞き、今回の現地交流・調査を行うことができた。

 訪れての実感は「ソウル市すごい」の一言に凝縮される。その一端を皆さんと共有できればと思う。

住民の提案に予算

 希望連帯労組などとの交流の合間に、実際に地域事業に携わる方からお話を聞くことができた。ZENKO(平和と民主主義をめざす全国交歓会)などで長い付き合いのあるオ・ソヨンさんのコーディネート力に大きな感謝だ。

 「パク市長は市民社会と一緒に政策を作ってきた」。ソウル市城北(ソンブク)区マウル(街)共同支援センターで働いている、ソン・ギョンソプさんはそう話し始めた。市の事業を実施するために作られた社団法人マウルネット。さらに各区ごとに城北区マウルネット法人のようなものが作られ、市の事業を区単位で実施している。ソンさんはその職員だ。

 「2011年にパク・ウォンスン氏が市長に当選して以降、住民自治のための事業が進んできた」。前線で取り組むソンさんの話は興味深い。

 彼の仕事は、ソウル市の予算を受けて城北区が事業を委託する城北区マウル共同支援センターで、マウル共同体公募事業を運営することだ。事業は、住民の集まりに補助金を出し、住民の集まりが活発になって地域の問題点を解決していくことをめざす。

 「すごい」と思った。足立区でも似たように「協働」「協創」の名で、住民自身が地域の問題を解決しようとか、行政に依存するのではなく市民が主体的に地域課題を担う存在へ、と言ったりするが、足立区は住民の取り組みに決して事業予算をつけはしない。

本当の「住民参加」とは

 城北区のマウル共同体では、住民から事業を公募する。革新的な点は、住民が自分たちで事業を設計し、例えば10個申し込みがあれば、みんなでプレゼン形式で発表しあい、専門委員50点、住民らも50点の配分で投票し、どの事業が補助を受けるか決める。

 城北区では、「共同子育て」「〇〇親の会」「ギター愛好会」など、住民の多様なニーズに沿って作られた集まりがあり、種子期、萌芽期、成長期と3段階で事業費が助成されている。事業規模によって変わってくるが、年100万ウォン(約10万円)から多い場合で年3000万ウォン(約300万円)まである。どう活動するか、センターの職員が住民に会ってアドバイスし、自立的な活動ができるよう支援している。

 足立区の「協働」には、孤立ゼロプロジェクトというお年寄りの地域での見守り・声かけ活動がある。見守りをおこなう主体はボランティアの自治会。区が予算をつけるのはPR(バス車内広告、うちわ、チラシ等)に250万円、調査用具(バッグ、ストラップ等購入)に670万円、調査委託に210万円などだ。

 本来、区が市民を雇用し人件費をつけてやるべき事業を、ボランティアの自治会に委託してやらせる足立区の「住民参加」。それに対して、住民自身が地域の中で必要と考える事業に市・区が予算をつけ、住民自身の活動を支えるソウル市城北区の「住民自治」。

 決定権が住民自身にあることが大切であり、どちらを「自治」と呼ぶべきか、一目瞭然だ。


街ごとのチャットン

 肝心のチャットンとは何か。

 「チャットンはまた別の政策の名前だ」。ソン・ギョンソプさんのマウル共同体は区ごとの運営。チャットンはさらに細かく町ごとに運営されている。「街づくり」「福祉」「健康」の3つの部門があり、福祉の職員は直接住民の家を訪問し、困っていることはないか、必要な手続きはないか、聞いていく。これまで役所でしかできなかった諸手続きを訪ねておこなうなどにより、福祉の捕捉率が劇的に向上したのだろう。この点が住民から大変喜ばれているという。

 「パク・ウォンスン市長になり、一気に自治が進んで現場の活動家の数が足らず、業務過多とも感じている」というソンさんの言葉は、足立区から見ればうれしい悲鳴のように聞こえた。

 先日足立区で介護のつどいに参加した時、視覚障がいのある男性が本来もっと早く受けるべき福祉サービスを、別件で区役所に行った折に偶然知り、受給できるようになったと聞いた。もっと早く知りたかったといっておられた。

 福祉の捕捉率を高めることは日本にとっても大きな課題だ。このチャットンのように、区民全員に担当職員が決まっていて、定期的に来てくれれば、役所にわざわざ行かなくともその場で手続きができれば、必要な人へ必要な福祉をもっと届けることができる。

 他にも、チャットンにより、町内のごみステーションの美化や住民が共同で使用できる工具図書館の設置など、市民の創意工夫で暮らしやすい街づくりが進んでいるという。

学ぶことがいっぱい

 住民自らが決定できる街づくり、堂々と享受できる福祉。この二つが画期的であり、足立区でもぜひ実現させていきたい政策だ。

 城北区は民主党の区長で、青年支援があるなど区長自身の哲学が予算に反映される部分が大きい。18年6月にその区長を決める地方選挙があり、パク・ウォンスン市長派が多数をとれるかによって今後の区での取り組みもかわってくる。ぜひその頃にまたソウル市を訪問したいと思った。

 聞けば聞くほど、先進的で興味のわくソウル市政。「他に特徴的な政策はどんなものがあるか」の問いに、「都市再生・デザインソウル、街をきれいにしようというもの。また、青年議会ではギャップイヤー(注2)が採択された」。約束の時間をとっくに過ぎても、まだまだ聞きたいユニークな政策がたくさんあるのだった。 (下に続く)

(注1)さまざまな福祉制度で、例えば生活保護制度の場合、受給要件を満たす人のうち実際に受給している割合

(注2)高校卒業後、自由に過ごす一定の期間を経たのちに大学等に入学する制度

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