2018年02月09日 1513号

【未来への責任(242)広がる「徴用工像」建立】

 極寒のソウルに行ってきた。「明治日本の産業革命遺産」問題に関する会議に出席するためであった。合間を見て、龍山(ヨンサン)駅前に建立された「徴用工像」を見に行った。

 龍山駅前、にぎやかに人が行き交う中に像は立っていた。ツルハシを手にし、左手は顔の前に翳(かざ)している。暗い地底から地上に上がってきて眩(まぶ)しい日差しを手で遮っている様子なのか、強制連行の現場から生還した際の姿を表したものであろうか。

 この像は民主労総などが中心になって建立した。同様の像は仁川(インチョン)にも建てられている。今後さらにソウルの日本大使館前、釜山(プサン)の領事館前、済州(チェジュ)島などにも建立される予定だという。

 「平和の少女像」(「慰安婦」像)ほどではないが、「徴用工像」建立がこの期に広がりを見せている背景、理由に何があるのだろうか。

 第1は、2012年5月の大法院判決とそれ以降の強制連行訴訟での被害者原告勝訴の積み重ねがある。これによって韓国社会では元徴用工・女子勤労挺身隊問題への認知が広がり、問題を未解決のままに放置している日本政府・企業への批判が高まっているのである。

 第2は、ユネスコ問題である。(「明治日本の産業革命遺産」をめぐる日本政府の対応、その問題点については本コラムで中田さんが詳しく報告されるのでそちらを参照されたい)

 この日、龍山駅前の「徴用工像」を立ち止まって見ている人はほとんどいなかった。ただ、その像は駅前の喧騒の中、違和感なく自然とその場に立っていた。植民地時代、龍山には日本の朝鮮軍基地が置かれていた。龍山駅は京釜線、京義線の起点で、ここから多くの朝鮮人が軍人・軍属、労務者として釜山に運ばれ、海をわたって日本の徴用現場や戦地に送られた。そんな歴史を記憶に残し、伝えていく縁としての役割がこの像には付与されているのか、と思った。異郷の地で亡くなった人、生きて帰郷した人、それらの人びとの思いを形象化し、歴史を振り返るために必要とされているのだろう。

 「徴用工像」建立は未解決の強制労働問題を解決するための一つである。韓国国会では今「日帝強制被害者人権財団設立に関する法律案」も準備されている。昨年6月、与野党超党派議員10人が国会に発議した。提案理由に、「強制動員被害者の苦痛を癒して国民統合に寄与し、進んでは究極的責任がある日本政府及び企業の責任意識を牽引して、韓・日間の健全な発展にも寄与」するため、とある。

 要は、ドイツの「記憶・責任・未来」財団に倣(なら)って強制労働被害者補償をめざす法案である。違いはある。ドイツの場合は、財団に出捐(しゅつえん)したのはドイツ政府とドイツ企業であったが、この法案では日韓の政府・企業が出捐することになっている。「2+2」で問題解決に当たろうということだ。加害国・企業も同じテーブルに付けさせる意義は大きい。

 法案は昨年11月、国会・行政安全委員会に付託された。この法案の成立を望みたい。

(強制連行・企業責任追及裁判全国ネットワーク 矢野秀喜)

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