2018年05月04日・11日 1525号

【米英仏がシリア空爆/日本購入予定のミサイル実戦初使用/犠牲はいつも市民と真実】

 米・英・仏がシリアを爆撃した。アサド政権が化学兵器を使用したからだと言う。化学兵器使用は国際法違反だが、それを口実に他国を攻撃するのも国際法違反だ。そもそも化学兵器が使われた事実すら確認されていない。なぜトランプ米大統領は今軍事行動に出たのか。世界を支配しようとする「1%」の連中には、常に軍事緊張状態が必要なのである。

化学兵器被害なし

 トランプは4月13日、「シリアの化学兵器関連施設を爆撃した」と発表。軍事攻撃には英仏両軍も加わっていると述べた。1週間前の7日、首都ダマスカス近郊東グータ地区デューマで、アサド政権が化学兵器を使ったと断定。艦船や爆撃機などから100発以上のミサイルをダマスカスなどへ撃ち込んだ。

 仮にアサド政権が化学兵器を使用したとして、それが軍事攻撃を正当化する理由になる訳がない。国連憲章は主権国家への軍事攻撃を禁止している。例外的に、国連安保理決議(42条)か、「自衛」(51条)のみ条件付きで認める。今回の米英仏軍による爆撃は明らかな侵略行為である。しかも化学兵器関連施設への爆撃は、化学兵器の飛散を招き、自ら化学兵器を使用するようなものだ。まったく矛盾した行為ではないか。

 シリアはこれまで化学兵器廃棄を進め、化学兵器禁止機関(OPCW)は14年6月、化学兵器の材料物質の国外搬出が完了したと発表している。今回、本当に化学兵器が使われたのか。OPCWが現地に入り、13日から調査を行うことになっていた。その直前に攻撃を開始。明らかな調査妨害だ。

 侵略行為はウソから始まる。イラク戦争も「大量破壊兵器の存在」がでっちあげられた。今回も「化学兵器は使われていない」とする現地市民の声がいくつも報道されている。反政府派の人権団体幹部でさえ「アサド政権に抵抗する反体制派への支持を結集するため、でっちあげられた」と語っている(4/12共同)。

 「化学兵器使用の証拠」として、酸素吸入や水洗いをされる子どもの動画が公開された。その撮影現場にいた医師は「ガス中毒で苦しんでいるのではなく、酸素欠乏で苦しんでいた」とインタビューに答えている(4/17英紙インディペンデント)。避難した地下壕やトンネル内の土ぼこりが原因だったという。


化学兵器使用の証拠か? 治療を受ける子ども―だが化学兵器による被害はなかったと病院スタッフは口をそろえる。
(ロシア国際放送「スプートニク」4月13日)

政権固めの爆撃

 これを「毒ガスだ」と騒いだのが民間防衛隊「ホワイトヘルメット」の隊員だった。ホワイトヘルメットは、市民ボランティアとして中立を装うが、米英仏はじめ多くの政府から資金提供を受けており、「アルカイダの別働隊」と指摘されている。やらせビデオの撮影など反政府勢力の「宣伝部隊」でもある。

 シリアではアサド政府軍がロシア空軍の援助を受けIS(イスラム国)を駆逐、他の反政府勢力の支配地をほとんど奪還していた。首都近郊の拠点東グータ地区も2月からの戦闘でほぼ制圧。化学兵器が使われたとするデューマでは最後の一部勢力も6日の政府軍の攻撃で崩壊、他地区への撤退に応じた。その直後の「化学兵器使用」。ほぼ勝利したアサド政権がわざわざ化学兵器を使う必要性はない。

 では、米英仏は偽情報と知りながら攻撃をしたのか。

 トランプ政権は、昨年4月にも化学兵器使用の偽情報でシリアを爆撃している。就任直後から不人気だったトランプにとって、攻撃を躊躇(ちゅうちょ)した前オバマ政権との違いを示す必要があった。今回は、さらに窮地に立たされている。

 トランプは4月9日、ロシア疑惑に関しFBI(米連邦捜査局)から自身の個人弁護士事務所の家宅捜査を受けている。押収された書類には女優への口止め料に関するものがあると報道された。これまで数人の女性が性的被害を告発している。また昨年5月解任されたコミーFBI前長官の回顧録(17日出版)が話題となり、「あらゆることにウソをつく」などの辛辣なトランプ批判が拡散していた。

 トランプに「ヨーロッパの頼りになる男」と呼ばれるマクロン仏大統領の役割は「アサドの化学兵器使用」を強く主張することだった。イラク戦争のときのブレア英首相と同じだ。「証拠がある」とするマクロンは「一線を越えたアサドには軍事攻撃あるのみ」と煽った。昨年来、支持率急落にあえいでいるマクロンは、サウジアラビアと石油化学企業への共同出資や戦闘機売買など38件の契約・合意を締結。総額180億ドルに相当する。中東での主導権を狙うサウジとの商談成立にシリア攻撃は欠かせなかった。

 EU離脱に向け求心力を発揮できないメイ英首相の事情はわかりやすい。3月に起こった元二重スパイ暗殺未遂事件。「強い首相」を打ち出すためにロシアの犯行と決めつけ、外交官を追放した。ロシアが支援するシリアに対する攻撃はその延長線上だ。


安倍も同罪

 自らの政権基盤を強化するために侵略戦争に踏み切る。この犠牲になるのは常に罪のない市民なのだ。

 米英仏による蛮行に安倍政権は「支持」と「理解」を示した。見過ごせないのは河野外相発言だ。河野は講演会で「シリアの化学兵器が本当に使われたとすると、北朝鮮とつながりがある。日本としてもひとごとではないのが現実だ」と語った。

 ネタ元は、米紙ニューヨーク・タイムズが2月にリークした国連報告書。朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)がシリアに「耐酸性のタイルやステンレス弁など」を送ったとされている。これを化学兵器製造用の材料だと決めつける報道がされたが、化学兵器と結びつけるには無理がある。防衛省幹部の「軍事行動も本当にやるんだと、北朝鮮に対し強力なメッセージになる」が、安倍の本音だ。「対話による解決」の道筋を潰したいとの思いがにじんでいる。

 日本政府は、シリア空爆で初めて実戦使用された航空機搭載型長距離巡航ミサイル(射程900`b)を購入することにしている。公海上から中国内陸部まで狙える敵地攻撃用だ。シリア空爆はひとごとではなかった。政府・防衛省にとっては侵略兵器の性能実験でもあったのだ。

 ただちに、すべての軍事攻撃をやめろ。全世界の平和を求める人びとと手を結び、グローバル資本のための腐敗政権を一掃しよう。
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