2018年07月06日 1533号

【未来への責任(252)強制労働否定する「明治」賛美】

 明治維新から150年の今年、安倍政権は内閣官房に「明治150年」関連施策推進室を設置。各省庁・地方自治体・民間を総動員し、「近代化の歩みが記録された歴史的遺産を後世に遺すことは極めて重要」として「明治の精神に学び、更に飛躍する国へ向けた施策」を推進している。その一つに「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」(以下「明治産業革命遺産」)を核とした「産業遺産に関する理解増進」が掲げられた。

 安倍が礼賛する「明治」は、「脱亜入欧」のイデオロギーのもと「殖産興業」「富国強兵」を柱に急速な産業の近代化と帝国主義諸国による植民地分割競争に参入するための軍事体制の整備の時代であった。必然的に近隣アジア諸国と軋轢(あつれき)を引き起こしたが、日本は強引に朝鮮の植民地支配や中国大陸侵略へと突き進んだ。

 その歴史認識から韓国政府は「明治産業革命遺産」の登録について、2015年のユネスコ世界遺産委員会で三菱長崎造船所、三井三池炭鉱、高島炭坑・端島炭鉱(軍艦島)、八幡製鉄所では朝鮮人の強制連行・強制労働があったとして反対した。しかし、日本政府は「1910年までの急速な産業化をめぐるものであり、戦時期の朝鮮人・中国人などの強制連行・強制労働は無関係」と主張し、最終的に世界文化遺産への登録が承認された。

 日本政府の理屈はこうだ。菅官房長官は「1944年9月から1945年8月の終戦までの間に国民徴用令に基づいて朝鮮半島出身者の徴用が行われた。これはいわゆる強制労働を意味するものでは全くないというのが、政府の従来どおりの見解だ。当時の日本の徴用は、ILO(国際労働機関)の強制労働条約、これで禁じられた強制労働に当たらないと理解している」。岸田外相(当時)も「国民徴用令ですが、強制労働に関する条約があり…強制労働が禁止されているわけですが、戦時中の徴用などは含まれない、こうした規定が存在いたします。よって国民徴用令に基づく対応を述べた日本側の声明文中の文言(forced to work=働くよう強いた)につきましては強制労働には当たらないと考えます」と述べた。

 ILO専門家委員会は、「国内法」による戦時の「徴用」であったとしても日本政府と朝鮮総督府が行った朝鮮半島からの労務動員は、条約の適用除外には当たらず、「慰安婦」や朝鮮人・中国人の強制連行とともにILO29号(強制労働禁止)条約に違反するとの見解を示しており、これに反する。朝鮮人の強制連行・強制労働が1939年7月、朝鮮半島から8万5千人(1939年度分)の労務動員を閣議決定したことからはじまり、募集、官斡旋(あっせん)、徴用へと拡大していった歴史的事実をも否定したものだ。

 「明治」賛美の根底には自民族優越主義(エスノセントリズム)がある。それは差別排外主義の根源であり、現在もてはやされている「日本スゴイ」「日本ファースト」の思想と通底する。「明治産業革命遺産」の問題は植民地支配の歴史にどう向きあうかという日本人に突きつけられた課題である。

(日本製鉄元徴用工裁判を支援する会 中田光信)
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