2018年08月03日 1537号

【見・聞・感/食の源泉をグローバル資本から守れ】

 連日の森友・加計問題などのニュースに隠れ、報道されることもないまま終わってしまった重大問題がある。日本の農作物品種の保護を通じて食の安全を担保していた主要農作物種子法(種子法)が今年3月で廃止されたのだ。

 種子法は、敗戦後の1952年に制定された。戦後の食糧難を背景に、稲・麦・大豆など「主要農作物の優良な種子の生産、普及」を図ることが目的だ。都道府県に優良品種(奨励品種)を決定するための試験や奨励品種の原々種・原種の生産、生産された種子の審査を義務付け、優良種子を生産・供給できる公的体制を作った。日本が戦後の食糧難を早期に脱し、豊かな生活を築いたのも、1967年、敗戦からわずか22年で米の完全自給を達成したのも、種子法で安全な品種の安定供給が保障されたからだ。

 ところが安倍政権は2017年2月、種子法廃止を閣議決定。国会ではわずか12時間の審議で廃止を強行した。

 種子ビジネスに参入したいグローバル資本やその代弁者・規制改革推進会議は「民間開発の種子が優良品種・奨励品種に選ばれたことが一度もない」ことを根拠に、種子の公的供給体制が民業圧迫だと主張する。利潤を追求せずに済むためより良い品種が安く提供される公的供給体制と、利潤追求の必要があるため良い品種は必然的に高くなる民間ビジネスを比較して、公的供給体制が優位なのは当然だ。生命や健康に関わる分野は「公共財」であり、市場原理に委ねるべきではない。

 種子法廃止で今後、主要農作物がグローバル資本に牛耳られるのではないか。そんな市民の不安を背景に、国が廃止した種子法とほぼ同じ内容の「主要農作物種子条例」を制定する動きが地方議会で続々と出てきた。新潟県議会では米山隆一前知事の指示で県当局が種子法に準じて作成した種子条例案を可決。埼玉、兵庫両県議会も続いた。農作物種子の公的供給体制の重要性が生産県・消費県の両方で共有されたことは有意義だ。

 新潟、埼玉両県議会では自民党も含む全会一致だった。知事交代でも政策転換の心配がなく、県は品種改良に、農家は生産に従来通り安心して打ち込むことができる。

 市町村レベルでも北海道岩見沢市議会のように、種子条例制定を求める意見書を採択するところも出ている。国が市民を守らないなら自治体が代わって住民を守る。これこそが地方自治だ。

 ちなみに、新潟県では与野党を超え愛されるコシヒカリ。開発したのが福井県農業試験場だったことは、知る人ぞ知る秘話である。(水樹平和)
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