2018年09月07日 1541号

【自民総裁選と安倍改憲/今秋臨時国会発議狙う/与党・維新に怒りの声を】

 安倍首相は8月14日、産経新聞が全面サポートする長州「正論」懇話会で講演し、秋の臨時国会で改憲案を提出すると表明した。

 安倍は講演の中で「憲法の中に、我が国の独立と平和を守ることと、自衛隊をしっかりと明記することで責任を果たしていく」とし、「いつまでも議論だけを続けるわけにはいかない。自民党としての憲法改正案を次の国会に提出できるよう、とりまとめを加速すべきだ」と述べた。早ければ来年5月にも国民投票にかけることまで狙う。

軍事が至高の価値に

 安倍改憲案は、戦争放棄を定めた憲法第9条第1項、戦力不保持と交戦権否定を定めた同第2項の文言はそのままに、「第9条の2」に自衛隊を明記し、合憲化するというもの。党憲法改正推進本部の議論では成案が得られず、本部長一任とされ、3月の党大会で「素案をまとめた」ことのみ報告された。安倍は総裁選に圧勝することで党内の異論を封じ込め「9条の2」創設で突き進もうともくろんでいる。

 安倍改憲案は自衛隊を「自国防衛のための最低限の実力」として書き込むもの。「自衛隊に関する憲法解釈は一切変わらない」と強調する。

 これは権力者の屁理屈だ。

 政府による安易な憲法解釈の変更は許されない。しかし、時の権力者は自らの都合に合わせて変更しようとする。現実に、安倍は集団的自衛権行使に関する歴代政府の憲法解釈を覆し、戦争法を作った。

 明文改憲は全く話が違う。憲法は権力を縛るものであり、市民による政府への命令書だ。その憲法に自衛隊を書き込むとは、自衛隊という戦力を持ち、「自衛」の名の武力行使を政府に命じることとなる。

 それは同時に、安倍のような軍事優先の施策にお墨付きを与えることとなる。

 日本国憲法の基本原理は、国民主権、基本的人権の尊重、平和主義だ。「自衛隊」という軍事組織の存在を憲法に書き込むのは、軍事が他の2つの基本原理と肩を並べることとなる。その結果、国民主権は軍事の前にないがしろにされ、基本的人権としての福祉・医療・教育・労働など軍拡と対立する政策は、「政策選択」の問題として後者が前者を駆逐することが当然の社会を生む。

 安倍政権下では、「防衛機密」を錦の御旗に秘密保護法が制定され、防衛省による情報隠蔽(いんぺい)が横行した。「国民主権より軍事」の政策であり、9条改憲とセットの緊急事態条項創設ではいっそう顕著になる。

 生活保護切り下げ、医療・介護利用者負担増、大衆課税=消費税増税の一方でイージス・アショアやF35戦闘機大量導入など際限のない軍事費膨張は「基本的人権より軍事」の政策だ。軍拡はグローバル資本の利益のためのものだ。その軍拡を容認する社会は、「人権よりカネもうけ」の政策を受け入れる。

 9条改憲は、根本的な社会改造に道をひらく。人権よりも「防衛」の名による軍事を優先し、ひいては、「1%」の利益のための国家を市民生活の上位に置く。

緊急事態条項は独裁許す

 自民党内での安倍改憲反対≠フ旗手は石破茂元防衛大臣だ。石破は、自民党が下野した時に作った、第9条第2項を削除し国防軍保持を明記する「自民党新憲法草案」に執着している。今回も「9条2項削除。陸海空自衛隊保持明記」を主張。「戦力不保持を残したままでは自衛隊を巡る議論が続きかねない」とフルスペックの軍隊を目指す。9条改憲は「国民の深い理解が必要」とし、当面、緊急事態条項と合区解消を改憲テーマとして優先する。

 「9条は後回し」でも、目指すは改憲。安倍と同じだ。

 自然災害が続発した今夏、石破は「防災省創設」を主張し「緊急事態条項」優先と整合性があるかのように見せる。

 自民党新憲法草案の緊急事態条項は「武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態」の際、内閣総理大臣が緊急事態の宣言を発することができるとする。内閣は法律同等の効力を持つ政令を制定することができ、内閣総理大臣に財政出動の権限と地方自治体の長への指示権が与えられる。国会の事後承諾が必要とされているが、現在の国会の状況を見れば、チェック機能などないに等しい。

 石破改憲も危険性においては、変わりはない。

与党・維新で発議も

 安倍改憲も石破改憲も、「国防」「国益」を最上の価値とし、人権を顧みない日本社会をもたらす。自民党の議員がこれまで重ねてきた生活保護受給者叩きやLGBT(性的少数者の人たち)への差別、沖縄基地問題を見れば、人権蹂躙(じゅうりん)に拍車がかかるのは明らかだ。

 自民党内には、憲法審査会を経ず、与党と日本維新の会などで発議する強硬論も出ている。改憲の必要性など全くない「教育無償化」を無理やり改憲案にねじ込もうとするのも、維新の改憲案に合わせたものだ。

 与党のみならず、維新の会などすべての改憲策動に抗議の声を上げ、改憲案の国会発議を阻止しなければならない。

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