2018年09月14日 1542号

【百害あって一利なしのサマータイム オリンピック口実に経団連の宿願へ 世界に逆行する長時間労働推進】

 オリンピックの「暑さ対策」を口実に、安倍政権が夏の時間を2時間繰り上げるサマータイムに関する法制定に動き始めている。7月27日、オリンピック組織委員会の森喜朗会長が安倍首相にサマータイムの導入を要請。安倍は早速自民党での政策検討を指示した。秋の臨時国会で議員立法提出を目指すといわれている。しかし、サマータイムの導入は百害あって一利なし、すでに世界中で廃止への動きが始まっている。

長時間化と健康破壊

 サマータイムを導入による問題点は大きく3つある。

 1つは労働時間のさらなる長時間化である。日本の労働環境は、みなし労働時間制度、裁量労働制、安倍政権が強行採決で新たに導入した高度プロフェッショナル制度など、労働者を長時間職場に縛り付ける過酷なものだ。

 始業時間には厳しく終業時間には緩い日本の企業風土では、サマータイムを導入したところで早く帰れることはなく、ただ2時間早く出社しただけで、帰る時間はいつもと同じといった状況になる。小売業やサービス業は営業時間の大幅変更が予測され、ここでも労働時間が長くなることが容易に想像できる。

 日本では、サマータイムは戦後の1948年に導入され、わずか2年後の1951年に国会の満場一致で廃止されている。残業量が増加し労働環境が悪化したからだ。

 第2の問題は健康問題だ。無理にサマータイムに順応しようとすれば深刻なリスクが生じると、国立精神・神経医療研究センター睡眠・覚醒障害研究部の三島和夫部長は解説する。「人間の体内時計は、睡眠リズムを『後ろに動かす』のは簡単にできても、『前に動かす』のは難しい。強制的に早起きさせられても、簡単には早寝することができず、睡眠不足に陥りやすい。ただでさえ、日本人の平均睡眠時間は、OECD(経済開発協力機構)諸国に比べて1時間も短い。さらに睡眠時間が削られれば、深刻な健康被害のリスクが高まる」

 1987〜2006年にスウェーデン国民を対象にした調査では、サマータイム開始直後の3日間に心筋梗塞発症率が5%高まっている。英国でも、サマータイムの一時休止後に再導入された1970年代のデータに基づく研究で、再導入後、傷害を伴う交通事故が10・8%増という事実が明らかになっている。

 ロシアでは2011年サマータイムを廃止したが、その理由は心筋梗塞で救急車を出動する回数が増えたからだ。

潤うのはITと財界

 第3は、導入には莫大なコストがかかり、IT産業などの大企業を利するだけということだ。マイナンバー制度導入時の再来になる。サマータイムで2時間繰り上がった時計のために各コンピューターシステムを調整し直す必要があるためIT関連企業に特需をもたらす。

 サマータイム導入をめぐっては、浮かんでは消える歴史を繰り返してきた。その旗振りの中心にいるのは、つねに財界総本山、経団連だ。

 第1次安倍政権下の2007年に、経団連はサマータイム導入を提言。経済財政諮問会議でも議論され「骨太方針07」に「早期実施について検討」と盛り込まれた。当時の経団連会長、御手洗(みたらい)冨士夫は現在のオリンピック組織委員会名誉会長だ。同会長の森元首相や安倍らと一緒になり、長年果たせなかった宿願≠五輪を口実に達成しようとしているのだ。

世界も世論もノー

 EU(欧州連合)ではすべての加盟国が3月から10月まで時計を1時間早めるサマータイムを実施しているが、健康への悪影響などを懸念する声も多く、1月フィンランドがEUに廃止を提案した。

 EUの執行機関にあたるヨーロッパ委員会は先月中旬まで1か月余りにわたって域内の市民から意見を公募したが、460万人が回答し、このうち84%がサマータイムの廃止を支持した。EUのユンケル委員長は8月31日、「市民に意見を聞いたのなら市民が望むことをせねばならないとヨーロッパ委員会に提案する」と述べ、サマータイムの廃止を目指す方針を示した。

 日本の世論調査でも、サマータイム導入は共同通信62%、日経55%、読売50%、毎日57%とこぞって反対多数だ。

 ところが、どう誘導したのかNHKだけは「サマータイム賛成51%、反対12%」。NHKは8月7日のニュースで「安倍総理が『サマータイム導入は国民の評価が高いと聞いている』と発言」と報じ、自局の特異な数字の強調で「圧倒的」「評価が高い」と世論誘導を図っている。

 オリンピックを口実にしたサマータイム導入に反対しよう。莫大な経費や誘致活動のワイロ問題に始まり、次から次へと問題続出。こんなでたらめでしか開催できない東京五輪は、もはや泥沼だ。



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